暖かい布団の中で目が覚める。
障子には穏やかな光が差していた。
体の所々に痛みを感じながら布団から起き上がる。まるで自分の体じゃないみたいに体が重い。
取り敢えずなんとか座れた。
体は重いし熱っぽい。おもい風邪でも引いたみたいに。
両足首に違和感を感じて足元の布団をめくってみると、両方ともに包帯が巻かれていた。どちらかというと固定に近い形で。一瞬骨折を疑ったがそんな記憶はないし、第一骨折ならもっと固定してあるはず。
「………(そういえば捻挫した)」
絡まった紐を解くように、記憶を辿る。
新門と居酒屋に出かけて、そこで何故か喧嘩に発展した。……そう、いきなり吹っ飛ばされた。
そこからほぼ空中戦で、、氷も使いながら攻撃と防御を繰り返していたら、着地した時に氷で滑ってまず右足首を捻挫。その後また吹っ飛ばされて地面に打ち付けられた瞬間、受け身を取ろうとして左足首も捻挫 ーー。
だいぶ使いこなせるようにはなったけど、自分の氷で片足を負傷していたら話にならない。しかも相手は最強と名高い消防官。片足の機動力を失えば、一気に形勢が………………、…あ…そうか、だから吹っ飛ばされてもう片足いったのか。完全にやられてる。
「お、目ェ覚めたか」
座ったまま記憶と思考を巡らせていると、タオルの掛かった桶と救急箱を持った紺炉が"現れる"。……部屋に入ってきた事に気づかなかった。
「……おはようございます」
「おう。つってももう午後三時だけどな。具合はどうだ?」
ああ、いつもと変わらない紺炉さんだ。
いつもって言えるほどこの人のことを知っているわけじゃないんだけど、この人の笑顔を見るとなんか安心する。
「オ、オイ…どうした?どっか痛ェのか?」
「え…?」
水の入った桶と救急箱を置いた紺炉さんが、私を見て驚く。
ああそうか…私が泣いてるからか。
何故泣いているのかが判らない。そもそも涙が流れたことにさえ気づかなかった。
泣いていることを自覚すると、涙が止めどなく溢れてきて、「大丈夫か」と背中をさすってくれる紺炉さんの所為で私は嗚咽した。
まるで子どもみたいに。
紺炉さん、意味不明じゃないのかな。
私は昨日新門さんと喧嘩してこうなってるのに、急に泣き出して。
……でもまぁ、あんな大隊長が一緒なら、慣れてるのかな。
「なァ、ナナ」
嗚咽する私に紺炉さんが優しく問う。
「ナナは誰かに甘えたこと、あるか?」
「……………」
「甘えたり頼ったり…腹割って話したり」
「……」
私はただ、背中をさする手を感じながら優しい声に耳を傾けていた。
「ナナはガキの頃、家もろとも炎で家族を亡くしちまってるって若から聞いてよ。だからお前はちっせェ頃から、自分を甘やかしてくれるような人間がもしかすると周りにいなかったんじゃねェのかと思ってな」
「………燃えた後すぐに能力に目覚めたので、中学に入るまでの7年間は灰島の施設にいて、その後は遠い親戚の家で訓練学校に入るまでの間お世話になりました。…でも、私もその親戚もお互いに興味がなかったので、私は誰かに何かを相談したり、頼ったり、それこそ甘えたことなんて……あの火事以来、一度もないです」
「…そうか。それは辛かったな。よく頑張ったな」
そう言われた瞬間、涙腺が壊れたように、まるでダムが決壊したように、、涙が溢れて落ちた。
だってそんなこと、言われたことない。
辛かったなんて思ったこともなかったのに、なんでだろう。
「紅の奴はな、なんでも全部自分の問題にしちまって、誰の力も頼らねェで突き進んじまうお前を心配してたんだ。いつか壊れちまうんじゃねェかって。……まあその、やり方が荒っぽすぎて伝わらなかったとは思うがよ」
……それで "麻痺してる" って怒ってたのか。
あの人、説明下手だな。何一つ伝わってなかったよ。
でも私も何で怒ってるのかもっとちゃんと聞くべきだった。一緒になって怒ってないで。…それだけ余裕がなかったってことでもあるんだけど。
「ありがとう…ございます」
ーーこの時、部屋の向こうに新門がいたことを私は知らない。
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