吹き飛ばされた地面の上、ほんの一瞬気絶していたナナが目を覚ます。
「いった…。あー……足、両足とも捻挫してる…」
地面に身体がぶつかる寸前、衝撃を和らげるため身体と地面の間に炎を出したが、この痛みと気絶していたことから考えるに、あまり功を奏さなかったらしい。更に両足揃って捻挫してしまっている。
流石は浅草の破壊王。女にも容赦がない。
「ーーさっきの…」
そういえばついさっき、気絶している間に変な夢を見た気がする。正確には"聞いた"が正しい。真っ暗闇でなにも見えなかった。
それにしても夢にしてはあまりにもリアルだった。今も鮮明にあの声を覚えている。自分そっくりの声を。
何故か胸が苦しい。
事実ばかりを言い当てられたから?
それとも、自分と似た声の主に同情して?
………わからない。
でも、"彼女も"苦しそうだった。
まるで深海の中で必死にもがいているみたいに。
どれだけ息をしても、もがいても、届きはしない。
ーー "殺せ"
ーーー "新門紅丸を殺せ"
立ち上がるとまた再び脳内に声が響く。
「…なんで新門さんを」
ーー "目的の邪魔だから"
ーーー "コイツを殺して早く第一に戻らないと、優しい彼がどうなっても知らないよ"
「カリムさんが、」
ーー "それを抜いたとしても……あんたの生きてる理由は何か、忘れちゃいないよね"
「……父さんを焔人にして、家族を燃やしたヤツを捜す」
ーーー "そう。アンタはその為だけに生きるの"
「……………………………」
強い風が吹く。
纏に乗った新門が現れた所為だ。
その気配を背後に感じたナナはゆっくりと後ろを向き、ポツリと呟いた。
「…足りない…………」
「あ?」
「足りない……………足りない足りない…!!気持ちも覚悟も経験も力も…全部!!!」
ナナは何かに取り憑かれた様に銀色の瞳を光らせる。
「テメェ…本気の眼だな?」
"本気で命を取りに来る" ーーーそう感じた新門は、瞬時に炎を撃ったが、ナナはその場を動かない。
ナナとその周辺に落ちた炎の塊が、爆発するように一瞬にして氷と化した。ーー刹那、ナナは周囲が凍った状態から新門に向けて背後で炎を発火させる。明確な殺意を向けながら。
「まさかお前、自覚してねェのか?それともわざと…」
"オーバーヒート目前"。
半ば怒りに身を任せながら第二・第三世代の両方を能力を駆使していたナナは、すでに発火限界寸前のところまできていた。
「やめろ!!!馬鹿かテメェそのままやったらオーバーヒートして…」
その声は届かず。
まるで何かに取り憑かれたように、目の前の新門を斃す事しか考えていない今のナナは、自分の限界など自覚していない。
「チッ…!」
背後で炎炎の炎を燃やすナナの身体を氷が蝕んでゆくーー。
前 /
次