新門紅丸にはいた。
ただ破壊することしかできない、本当にどうしようもない自分を叱り、鍛えてくれた人間が。
気づけば自分の周りには多くの人がいた。
けれどナナにはいなかった。
そういう人間が周囲に現れ始めた頃にはもう、"この人格"が出来上がっていた。
あの日の恐怖を押し殺し、炎と共に生きる道を選んだ。
自身の問題には他人を一切踏み込ませず、目的のためならば先輩や上司、同僚でさえも欺き、裏社会にも関わりを持った。
真実を求める意志の強さと、求める段階で形作られた完成度の高い人格のせいで、新門が感じた不安定さや危うさに、誰も気づくことができなかった。
だからこそナナは大切な感覚や感情を麻痺させたまま大人になってしまった。
その異変、違和感に気づいたのがカリム・フラムと新門紅丸だが、なんにせよ新門の気づきは異様に早かった。
「なんの騒ぎだ!?」
爆発音を聞いて慌てて外へ飛び出した紺炉は、大きすぎる炎の翼で夜空を飛ぶ人影と、日輪を背に屋根の上に立つ人影。
どちらも誰かすぐにわかった。さっき飲みに行った二人だ。
「紺炉さん!よく分かんねェが若とお嬢が三丁目の酒屋の前で喧嘩してるらしい!」
「ナナと若が喧嘩…?なんの喧嘩だ!(…!!紅のヤツ…ナナ相手に日輪やるつもりか?!いくら氷があっても…。ーーいや、それよりこんな時間に喧嘩如きでデケェ被害出しちまう前に止めるのが先か)」
「さっぱり分からねェが、このままじゃ嬢ちゃんがやべェと思ってよ!」
「……何にせよ、アイツらが暴れたら町もタダじゃ済まねェ。俺が行ってくる」
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・
他の連中はコイツを「しっかりしてる」「完璧」「優秀」と評価するが、俺は「不安定な奴」だと思ってる。
たしかにコイツは優秀だ。否定はしねェ。
側から見りゃ完璧にも見えるだろうな。ヒカヒナの面倒見てやったり、焔人を抑える時も人は勿論家や店に一切被害を出さなかった。
けどそれはあくまで表面上の話だ。
コイツは"それだけじゃねェ"。
「...いってェな。お前本当に女か」
「普通に私も痛いんですけど」
ヤベェことに首を突っ込んでんじゃねェのかとは聞いたが、何に突っ込んでんのかまでは知らねェ。まぁさっきの反応的には突っ込んでること自体は間違っちゃいねェだろうが。
なんにせよこいつは、第二世代能力の扱いよりももっと大事なコトを覚えなきゃならねェ。
でないとコイツはーーー……。
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