「うちの旦那があそこの奥さんと喧嘩してね。それ以来会ってなかったんだけど、遠いとはいえ血縁だし」
「訓練校に入るまでの間だけでいいって本人も言ってたしな」
ーー私たちはお互いに興味がなかった。
幼い頃、突如奪われた日常。
その後保護された灰島で、ある程度第三世代能力をコントロールできるようになった次の年から、一般の中学に通うことになった。
中学から訓練校に通うまでの間は灰島の施設ではなく遠い親戚の家に世話になることに。
喧嘩が原因で沚水家との縁を切っていた親戚とナナの仲は良くも悪くもなく。「子どもだし、訓練校に入るまでなら」という理由で親戚は一時的にナナを引き取りはしたが、愛情は与えなかった。
ナナ自身、「手紙」の送り主を見つけ、あの日の真実を知るという目的があったので、親戚の目が自分を映していないことなど気にならなかった。
しかし愛情に対する飢えや寂しさなどの感情を、この時点で失っていた。
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ーー時は遡り、浅草。
「おう紺炉、紅のやつ偉い別嬪さん連れてたぞ」
「第一の特殊消防官だろ?オヤジ」
「ナナのことか?」
第七の詰所には酒の瓶を取りに来た酒屋の男とその弟子が来ていた。
「ああ、この瓶はまとめてこっちに入れてある」
「いつもあんがとよ」
「でも珍しいですよね、紅丸さんが女連れて飯なんて。一目惚れとか?」
「ハハッ、そんなんじゃねェよ」
「そんなに気に入ってんのかい?」
「ナナは第二世代能力のコントロールを唯一の煉合消防官である若に教わる為にウチ来たんだ。若は自分と似たナナがほっとけねェのかもな」
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