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- ナノ -

「そんなに旨かったのか」

沚水ナナは普段は勿論、組手の時ですら殆ど表情を変えないが、美味しい物や嬉しかった時にその反応が表情や態度、雰囲気に素直に出る。
それが第一の3人の先輩から可愛い後輩だと思われていた理由であり、彼らの密かな楽しみでもあった。

「なんでわかるんですか?」

「顔見りゃわかる」

「(そんな顔してたっけ…)お刺身、それから茶碗蒸し。聞いたことはあったんですけど初めて食べました。あとだし巻き卵とお茶漬けも」

ナナが終始感動していた料理はどれも、新門にとっていつもとは言わないが昔から食べ慣れているものばかり。
新門は反射的に「お前普段何食ってんだ」と口にしていた。

「基本洋食です。第一の食堂で。和食も食べますけど、そんなに食に対する興味もあんまりないし、基本は第一にいるので外食もしません。だからこういうの初めてです。あ、でも普通の卵焼きは食べたことあります」

「そうか」

ナナはとにかく説明しづらい人間だ。それも関われば関わるほど、知れば知るほど。

浴衣が初めてなのはまだ分かるが、今じゃどこの居酒屋でも当たり前に食べられるようなものを一度も食べたことがなかったり、組手では全く隙を見せないくせに店に来る前、川を見ながら歩いていて石に躓いたり。

歳は変わらないのに、辛い過去と職務以外の経験がまるで子どものように浅く、人が普通に生きていれば、当たり前のように知っている事をナナは知らなかった。

「そういやお前、昨日の会話覚えてるか?縁側でババァの日本酒呑んでた時の」

「…………あんまり?…もしかして何か話されてましたか?」

「………まァいい。ナナ、お前何かヤベェことに首突っ込んでんじゃねぇのか」

今日はそれを聞くために日本酒を避けていた。

「ヤベェこと?」

「お前は昨日、家もろとも家族を燃やされたって話してただろ。焔人化した父親が原因とされているが、"本当は違う"と。その根拠はなんだ?」

「それ、酔った人間の戯言ですよ」

「お前はいつも"そう"なのか?俺を欺けると思ってんなら諦めろ」

頬杖をつき、顔にかかった長い前髪の下から覗く赤い瞳がナナを逃さない。

「何故そんなこと気にされるんですか?新門さんには全く関係ないことなのに」

「俺は先代に拾われた野良犬でよ。実の親に育てられたワケじゃねェ。だがお前も詰所で顔合わせてる連中や町の人間に面倒見られながらここまでデカくなった」

「これ、もしかして説教ですか?実の親に育てられてない私への」

警戒するナナは軽く目を細めた。

「まァそんなとこだ。ーーで、お前には誰か面倒見てくれるようなヤツはいたのか?」






欺く者と暴く者
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