縁側で待つ新門のもとへ、浴衣姿のナナが現れる。せっかく出かけるならと気を利かせた紺炉が詰所にあった原国の浴衣を用意したのだ。
「お待たせしました」
「似合ってんじゃねェか」
その浴衣姿を素直に褒めた新門は、初めて着る浴衣の長い袖や下駄を気にするナナを見ながら立ち上がった。
「浴衣ってのはそういうモンだ。初めてか?」
「初めてです。この髪に刺す竹串の鉄バージョンみたいな物はアクセサリーなんですか?」
不思議そうに自分の頭を飾る簪を摘んで引こうとしたナナの手を、両袖に手を入れたまま側に来た新門が袖から片手を出して止める。
「例えのセンスは壊滅的だな…。それは簪と言って女が浴衣に合わせて付ける髪飾りの一種だ。行くぞ」
新門はナナが摘んで引いた分を髪に押し戻してやると、また袖に手を入れて歩き出した。
「かんざし…」
・
・
「紅!なんだァ若い子連れて!」
「遂に紅にも女が出来たか!」
新門の少し後ろについて歩いていると、耳まで真っ赤に染まった街の人間がからかった。
「るッせェクソジジイ。こいつはウチで面倒見てるヤツだ」
浅草の民であれば皆、新門のキツイ口調には慣れている。
「……ああ、昨日の姉ちゃんか!なんだァ早く言えよ紅。いやァ浴衣着て髪整えたら誰か分かんねェな?別嬪さんだ」
「よく似合ってんなァ姉ちゃん。本当に紅の女にーーー「うるせェ。行くぞ」」
「失礼します」
からかわれたことなど気にもとめず、カランコロンと鳴る心地のよい下駄の音を聴きながらナナは新門の後ろを歩いた。
「珍しいな、紅が女連れてるなんてよ」
「明日は槍でも降るんじゃねェか?」
「違いねェ」
今日の浅草の夜も賑やか也。
ーーしばらく歩くと人気のない路地に入り、そこを抜けると提灯と夜空を写す綺麗な川が見えた。
「水、綺麗ですね」
「ここんとこ雨も降ってねェからな」
歩きながらナナが川へと近寄っていくと、慣れない下駄で大きな石に躓き、浴衣で脚を広げる事もできないので顔面から前方へと倒れ込むがーー
「前見て歩け、危ねェだろ」
ーー新門がナナの手首をしっかり掴んで止めた。
そして前のめりになっているナナを、掴んでいる手首を片手で引いて元に戻してやる。
「…ありがとうございます」
昼間は危険な雰囲気を醸し出していたクセに、今は先程のショックで驚いているのか、少し落ち込んだ様子のナナ。
「ちょっと怖かったです」
ーー別の意味で読めない。だから面白い。だから気になる。
「見てェなら言え」
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