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- ナノ -

ーー今夜は満月。

「…(早く見つけないと…はやく…はやく…)」

ぐるりぐるり、ゆっくりと思考が回る。

頬と耳をほんのり赤く染め、空になったお猪口を見つめる銀色の瞳は、少し曇っていた。
先程まで縁側に流れていた穏やかな空気に小さな亀裂が入る。その原因であるナナは、どこか危険な雰囲気を醸し出していた。

機嫌が悪いとか、顔色が悪いとか、そういう目に見える次元じゃない。"普通の人間であれば"この空気には気づかないだろう。

当然、新門紅丸は瞬時に察知していた。

「新門大隊長、このお酒、ほんとに美味しいですね。私、お酒美味しいと思ったことがなかったんですけど、日本酒はじめてで…日本酒って美味しいんですね。ビールがダメだったんだ」

ーー間違いなくこの女は酒に酔っている。

弱いわけではないが、呑むこと自体に慣れていないのだろう。この度数の高い日本酒を、ジュースでも飲むような勢いで呑んでいた。
…何故止めなかったか?知らなかったからだ。

「でももうやめときます…酔ってきたんで」

「気づくの遅ェだろ…」

「新門大隊長、注ぎますか?」

「なァお前、何かヤベェ事に首突っ込んでんじゃねェのか」

赤い瞳が眠そうな銀色の瞳をしっかりと見据える。

「…わたし…は……ーーー」

うとうと、うとうと。
ナナの身体が次第に斜め横へと傾き、頭から一升瓶に向かって倒れかかったその時、その身体を片手で新門が止めた。

彼も酔ってはいるが、たった今ダウンしたナナほどではなかった。

「…オイ、寝ンなら部屋で寝やがれ」

新門は片手で支えたナナの真下にある一升瓶を退け、とりあえずなるべく静かに縁側の床に寝かせると、ナナはそのままスースーと気持ちよさそうに眠ってしまった。

ーー刹那、新門はナナの指先が凍りついていることに気付く。一瞬目を見開いた。周囲に炎はない。しかも本人は眠っている。一体何故、どうやって。

「………まさか」

ふと思いついた新門は、縁側の端の蚊取り線香に目をやる。
ーーやはり。線香は消えていた。つまりナナは線香の僅かな熱を無意識的に氷に変えたということだ。

「(離れた場所にある熱を触れずに氷に変換できんのか。…しかも寝たまま)」

ーー面白い奴だ。
新門は口元に笑みを浮かべながら、ナナの凍った手に触れ、炎で溶かす。

実力は確かでしっかりしているのに、どこか放っておけない。新門はそう感じていた。




放っておけない奴
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