ーーどうしても頭に浮かぶのは、信頼する2人の先輩のどちらかが人工的に焔人を作っている犯人であるということ。
"表"でそれを知っているのは自分だけ。
"裏"から得た情報だ。
今、ナナは第二世代能力を使いこなせるようになる為にと第七に来ているが、正直気が気ではなかった。
いくら信頼できる上司のカリムがいるとはいえ、相手はあのフォイエン中隊長か星宮中隊長。万一自分のいない間に対峙するようなことになったらと思うと、どうしてもこちらでやるべきことに集中しきれない。
「ーーあ」
「…なんだ、お前も抜けてきたのか」
詰所に戻り、用意された部屋へ向かう途中、背後から新門の声と酒の匂いがしたので振り返ってみると、彼は蓋の空いた一升瓶片手にナナを見下ろしていた。それで酒の匂いがしたわけか。…しかし蓋はどうしたのか。
「すいません」
「アイツらが呑みてェから集まったようなもんだ、気にすんな」
「…新門大隊長は戻られないんですか?紺炉さんが心配されてました」
「めんどくせェ。お前が今日持たされて来た酒あんだろ、こっちの方が辛口でうめェんだ。お前も飲むか?」
彼は酔っているのだろうか。まさか誘われるのとは思わなかった。表情に変化はないが、今朝詰所で言葉を交わした時とは雰囲気が少し違う。なんというか敵意がない。
「…はい」
・
・
「旨ぇ」
縁側には、中身が半分になった一升瓶とお猪口が二つ。そしてそれを間に男女が2人。
「新門大隊長、昼間はすいませんでした」
「…あ?昼間?」
「凍らせてしまって」
結局あの後、新門は氷については一切触れず、「今日はこの辺でいいだろ」と言って詰所へと戻っていった。
「謝るってことは、無意識ってことか」
「はい」
「だろうな。お前の手は全部が本気だったが…俺にはどっかで組手が終わる事を待ってるように見えた。…怖いんじゃねェのか、自分の力が」
ナナはお猪口を親指で撫ぜる。
「氷だけじゃねぇ、炎もな」
その言葉に胸が締め付けられる。全て当たっているから。…しかしそれをどうやってあの組手だけで見抜いたのか。
「…小さい頃、家族を家ごと燃やされたことがトラウマで、本当は炎が怖いんです。能力を使う時も、鎮魂する時も…」
「…燃やされた?」
ーーこのとき、2人とも少し酒に酔っていた。
真実を知る為、最も信頼する先輩ですら欺いてきたはずのナナが今日会ったばかりの人間に本音を少し晒してしまっているのは、酒とカリムの影響が大きい。
「はい、何者かに。表では焔人化した父が原因とされていますが、本当はそうじゃないんです。…その真実を知るために、恐怖を隠してきたつもりだったんですけど、第二世代に目覚めてから、コントロールが全く効かなくなってしまって」
「本当はそうじゃねェって、どういう意味だ?」
新門はお猪口に残った一気に酒を飲み干すと、視線をナナに向けた。
「…詳しくは言えません。でも、父をあの事件の犯人にした人間がいるんです」
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