「そういえば今日の午後からでしたか?ナナの研修は」
「あァ」
俺はまさにそのナナのせいで寝不足だ。
アイツは昨日の夜、日が変わる前に俺の部屋に来て、俺に胸の内の不安を打ち明けた。「もしも自分の信頼する仲間が、焔人を作っている犯人だったらどうするか」ーーと。
ないとは言い切れないことだ。
子供が集団で燃えた、あまりにも不自然な事件………アレだって第一の管轄内で起きたことだ。あの蟲もそこで見つけた。
圧倒的にそれよりはマシだが、その後も第一の管轄や俺たち特殊消防隊しか入れない、一般人の立ち入りが禁止された区域で不自然な火災や焔人の出現があった。不審に思っている部下もいるだろう。
………とはいえ"あのナナ"がそれを不安に思い、更には涙を流して他人に打ち明ける日がくるとは正直思わなかった。
アイツは今まで見せなかっただけで、本当は情の厚い、優しい人間だ。可能性だけで泣くんだからよ。
「カリム、クマができていますよ。また夜更かしでもしたんですか?」
「報告書を仕上げてから冷却管の手入れをはじめたら、結局寝るのが夜中の3時になっちまった」
「……またですか」
ーーまァ、自分の最も信頼する部下であり、後輩であり、同期でもある人間の成長は嬉しいもんだ。
「どうかしましたか?」
「なにがだ?」
「笑ってましたよ、今。何か良いことでもありましたか?」
「………いや、ちょっとした思い出し笑いだ」
まぁ、帰ったらメシくらい奢ってやるか。
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