「人工的に焔人を作るといっても、その方法がなんだかお前は知ってるか?」
「……何?」
「ヤツらは蟲を使うんだ。コレぐらいの瓶に入るようなちっせー蟲をな」
ーー地下での会話、思い出すんじゃなかった。
いや、無理か。無理だよね。思い出さないほうがおかしい。
こんな物を見せられて。
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・
カリムはナナに小さな蟲が入った小瓶を見せた。
その直後だった。ナナがベンチに着いていた手から炎がおこり、それがそのまま凍りついた。
「な………!」
これをやったのはカリムじゃない。ならナナが?…でもナナは第三世代能力者で、第二世代の能力を持っているなんて一言も言っていなかったし、実際に使ったこともない。
「氷…!?どういうことだ…!?ナナ!お前第二世代の能力も持ってたのか!!?」
……何が起きているのかがわからない。
ナナはカリムの問い答える余裕はなかった。
銀色の瞳が光り、今まで一度も見せたことのない表情で泣いていた。
「ーーっ!!ゃ…!なに…なにこれ……!やだ!!」
ーー恐怖と涙、そして焦り。
「オイ!ナナ!!(…ックソ!何が起きてんだ!)」
普段冷静なあのナナが、ベンチごと凍って動けなくなった右の手のひらを見てパニックを起こしていた。
氷は心の恐怖を表すように、パキパキと音を立てながらナナの手のひらよりも上へと這い上がる。
それに対する焦りや、そこから無理やり手を引き抜こうとするナナを見れば、この能力を隠していたわけじゃないのは一目瞭然だったが、あの蟲を見せたのがこの引き金になったのも事実だ。
「落ち着けナナ!大丈夫だ!落ち着け!」
「やだ!!!や……いや…!!」
ナナにカリムの声は届かない。そしてカリムの能力ではナナの氷を溶かすこともできない。
手のひらから肘まで凍りついてしまった右手に更に焦るナナが振り回していた左手を、カリムはしっかりと掴んで引いた。
「ーー落ち着けナナ」
真剣な表情のカリムと涙でぐしゃぐしゃになった顔のナナが向き合う。ナナの動きが止まったのと同時に、氷の凍りつく勢いも止まった。
「カリムさん……わたし…なんで……」
ーーやはりナナはこの能力を自覚していなかった。
「落ち着け、大丈夫だ。お前は俺の優秀な部下だろ?」
ボロボロと溢れる涙をカリムは拭う。
「(このままじゃ凍傷になっちまうな…)ナナ、火ィ出せるか?」
「…出したら、また凍る…かも、しれな…」
思い出してまた呼吸が荒くなるナナに、カリムは一瞬困った。自分が第三世代能力者なら溶かして助けてやれるのに。
ーーいや、そんなことを今考えてもしょうがない。出来ないことを悔やんでいる場合じゃない。
「ーーいいや凍らねェ」
カリムはナナの後頭部に手をやり、そのまま自分の胸に押しつけた。
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