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ーー 国家錬金術師の資格の更新、つまり査定に通る為、実の娘と飼い犬を使いキメラを作ったという残虐な事件は瞬く間に東方司令部にも知れ渡った。

その事件の目撃者となったエルリック兄弟は土砂降りの中、東方司令部前の階段の中ほどに座り込んでいた。

「もしも"悪魔の所業"というものがあるなら、今回の件は、まさにそれですね」

そしてそんな二人の背中を階段の一番上から見下ろのはリザ・ホークアイ中尉とロイ・マスタング大佐だ。

「悪魔か……身もフタもない言い方をするならば、我々国家錬金術師は軍属の人間兵器だ。一度、事が起これば召集され、命令があれば、手を汚す事も辞さず――人の命をどうこうするという点では、タッカー氏の行為も我々の立場も、たいした差は無いという事だ」

「それは大人の理屈です。大人ぶってはいても、あの子はまだ子供ですよ」

「だが彼の選んだ道の先には、おそらく今日以上の苦難と苦悩が待ちかまえているだろう。むりやり納得してでも、進むしかないのさ。そうだろう、鋼の」

黙り込んでいるエルリック兄弟の兄エドワードの方に、いつまでへこんでいる気だとマスタングは続けた。

「軍の狗よ、悪魔よとののしられても、その特権をフルに使って、元の身体に戻ると決めたのは君自身だ。これしきの事で、立ち止まってるヒマがあるのか?」

「「これしき」……かよ。ああそうだよ、
狗だ悪魔だとののしられても、アルと二人で元の身体に戻ってやるさ。だけどな、オレたちは悪魔でも、ましてや、神でもない」

ーー コツ、コツ、コツ。

マスタングとホークアイは、自分たちの横を通り過ぎ、傘もささずに階段を降りていった軍の誰かを目で追った。

階段を降りていく小柄な軍人の綺麗に切り揃えられた亜麻色の髪があっという間に濡れていく。

「人間なんだよ!!たった一人の女の子さえ助けてやれない、ちっぽけな人間だ………!!」

ーー エルリック兄弟はふいに人の気配を感じ同時に右のほうに振り向くと、人一人分先に小柄な女性がしゃがんで二人を見つめていた。
土砂降りの雨で張り付いた亜麻色の前髪の隙間から綺麗な薄紫色の瞳が見える。

二人は一瞬、時間が止まったような気がした。

そして、しゃがんでいた女がにこりと笑うと、突然雨が止んだ。 ーー 否、二人の背後から伸びた氷の壁が雨を防いでいた。

当然二人は驚く。
なぜなら目の前の彼女は錬成陣を描くことも、いや、なんのモーションもなしにそれをやってのけたからだ。

そんな光景をマスタングは眼を細め見ていた。

『風邪ひくよ』

それだけ言うと、亜麻色の髪の女は立ち上がり、マスタングとホークアイに一礼して階段を降りて行った。

「なっ、オイ!!今のどうやって ーー !!」

「やめたまえ。彼女も国家錬金術師だ」

「国家錬金術師……もしかして"氷晶"の?」

「知っていたのね、アルフォンスくん」

「なんか氷を錬成する人がいるみたいなことは…」

「大佐…!今のなんだ?なんのモーションも無しに……まさか!」

残虐な事件のショックと恐怖もかり、まるでお化けでも見た様な顔でエドワードは大佐に問いを投げた。

「彼女は錬成陣が靴の裏に描いてある。それだけだ」


ーー そう、今彼らに話すのはそれだけでいい。



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