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「アヤメさん…あの、お願いがあるんですけど……」

『なあに?』

「……お父様とお母様に内緒で、僕に錬金術を教えてくれませんか?」

『錬金術?どうしたの?』

子供の部屋とは思えないくらいに広いセリムの部屋には、キングサイズのベッドと勉強机、来客用の大きなテーブルとソファ、そして本がびっしり詰められた本棚がある。
横長のソファに一緒に座ってアヤメを見つめるセリムの目は輝いていた。

「錬金術を勉強して、使えるようになって、お父様の役に立ちたいんです」

『大総統の……それは凄いね。セリムならきっと凄い錬金術師になるよ。頭もいいし、頑張り屋さんだし、何より優しいから』

セリムの頭を撫でながら、アヤメはセリムが持ってきた錬金術について書かれた本を手に取る。

そしてポケットの中にいつも念の為常備しているチョークを取り出すと、青い制服の右脚の太ももに簡単な錬成陣を小さく書いた。

『内緒だよ?』

「はいっ…!」

アヤメが右足のつま先をトントンと鳴らすと、つまさきが薄紫色の光に包まれ、その光はアヤメの書いた錬成陣までくると、錬成陣の上で氷の機関車に変化した。
さらに氷の機関車の下の錬成陣を発動させればーー、漆黒の結晶でできた機関車が完成した。

「すごい…!どうやるんですか!?」

アヤメは小さな機関車をセリムの手のひらに乗せ、そこにチョークも置いた。

「これって…」

『氷は私の家に伝わる錬成陣だから……
でも、錬成陣を書けるようになったらこれくらいの機関車なら作れるよ。この本に最初に出てくる錬成陣と、今描いた錬成陣がヒントかな?ーーペンで紙に描くと見つかっちゃうから、チョークでね?』

ーー二人だけの秘密。
シーと唇に人差し指を当てたアヤメにセリムは「ありがとうございます!」といってまた抱きついた。

その時、ドアの向こうで夕食を知らせる使用人の声が聞こえた。二人はソファから立ち上がり、セリムは機関車とチョークを引き出しに入れ、本を本棚に戻しに行った。

大切にしまっているのだろう。セリムはその本を部屋の一番奥、本棚の一番端まで小走りでしまいにいった。

『セリムのお家の夕飯楽しみだなあ』

「今日はアヤメさんがきたので、きっとお肉料理です!」

少し先に部屋を出ていったアヤメの背中を、セリムはほんの少しだけ足を止め、見ていた。

その目にはさっきまでの面影はなくーー
全てを知り尽くし、その上で何もかもを俯瞰しているような眼でアヤメの背中を見つめ、

セリム・ブラッドレイは口角を上げていた。


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