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ーー曰く、その「水」はどんな傷も癒し、その水の完全なる錬成に成功すれば死者をも蘇らせる。




ノースシティの山奥ーー 年中溶ける事のない雪山のさらに奥に、ニコラス家はあった。

どんな傷をも癒すと言われる、まるで奇跡のようなその「水」は、元来ニコラスの家に伝わる「男は「冷」の全てを錬成し、女は傷を癒す」という男女別に継承される錬金術の伝承を組み合わせ、そこから派生した新たな概念だった。

ニコラスの男子が受け継ぐ「「冷」の全て」と言うのは、その地に積もる雪や、氷柱、氷を自らの力に変えるというもので、
女子は、戦場に赴き帰って来た男子の傷を癒す錬丹術に近い医療に特化した錬金術を扱った。

そんな伝承を守り、繰り返し繰り返し次の代へと繋いでいくなかでニコラス家は男女の錬金術や錬成陣を組み合わせ「奇跡の水」を作り上げた。

その水は、ニコラスの女が受け継ぐ錬金術をもってしても治せなかった病気や瀕死の男子を癒し、治した。

ーーが、しかし。
その水を飲んで病気や傷を完全に治した者達全員が、その数日後に突然死した。
家の残した研究によると、錬成陣は良いがおそらく「材料」が悪かった(弱かった)らしい。

そして結局家はその材料が何かまでは至らなかった。




「ーー なるほどな。なんつーかアレだな、賢者の石の水バージョンって感じだ。んじゃ今も家はその材料がなんなのかを探し続けてんのか?」

『ううん。私の家、今はないから』

「無い?(家が無い…って、もしかして僕らと一緒…?)……えっと…一族が滅んだみたいな、そういうことですか?」

『うん。ちっちゃい頃に私以外みんな殺されちゃったらしくて。ーー その時、家も壊されてね。
…吹雪にさらされて…死にかけてたからあんまり覚えてないんだけど、周りが真っ赤に染まってたことは鮮明に覚えてる。子供の頃はトラウマだった。

…何故そんなことになったのかも、私だけが残された理由もわからない。今となっては神のみぞ知るーーってね』

どこか遠くを見つめ、過去を思い返すアヤメの切ない横顔に、完全に聞いてはいけない事を聞いてしまったと兄弟は罪悪感を感じた。






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