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聞いて5(一年生編)


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昨夜、侑と治の家では
今日から正式に稲荷先高校排球部に所属し、マネージャーになる七志はなこの話で大盛り上がりだった。二人がバレーを始めた小さな頃から二人の指導もしていた父は勿論、応援や送迎でしばしば大会や練習試合に顔を出していた母親まで"七志はなこ"を覚えていた。

それ程までに小学時代の彼女と彼女の所属するクラブチームは強かったのだ。全国の切符を逃す時はいつもそのチームと対戦した時。


「お前ら覚えてへんやろうけど、その決勝の後七志サンとお前ら握手しとったで。なんやアレ見とったらめっちゃ泣けてきてなぁ。
男子と女子が握手てなんか熱いやん?」

小学生最後の大会でやっと勝った時のことを、父は本人達よりも覚えていた。

「あー………せやっけ。何話したか覚えてへんわ。サム覚えとお?」

「覚えてへんけど握手したんは覚えとる。宿敵やったからな。アイツにどんだけ騙されて決められたか」

小学生の頃を懐かしみながら夕飯にがっついてる双子に、しばらく姿が見えなかった母親が一枚のCDを持って戻ってきた。侑がなんそれと食べながら問えば、母は笑顔でディスクを侑に渡す。

「おお…!コレ、あん時の決勝やん!見るで治!」

「!…おう」

ご馳走さまをしてダッシュでリビングのDVD再生機にディスクをセットする。そんなに急がなくてもディスクは勿論映像は逃れない。そんな事はわかっている。けれど急がずにはいられない侑はディスクを壊す勢いで突っ込んだ。

しばらくして映し出された映像。
今よりずっと小さな背丈に華奢な身体、幼い顔をした自分たちとチームメイト。そして相手チームが映ると二人は「ちっさ!」と声を合わせて笑う。

「上手すぎやろはなこちゃん!自在やん」

「ホンマに小学生なんか疑うレベルやな。他の奴も強えしこん時よう勝ったな俺ら」

「試合前アラン君に喝入れてもぉたっけな」

見れば見るほどその時のことを深く思い出す。懐かしさと同時に当時のスーパー小学生、七志はなこのテクニックやプレーの多彩さを改めて思い知った。

"こんな子が辞めるなんて勿体無い。"

口に出さずとも二人は同時にそう思った。
恐らく彼女は天才だった。
けれど、小学生ながら指や脚の至る所に巻かれたテーピングの量を見ればチームメイトの誰より努力していたのだろうと察しがつく。

それを実力の部分だけを見て僻み、妬んだ自分勝手な者に崩された。
それでも彼女は諦めていない。
バレーが好きだと言っていた。
その知識を活かしてバレー部のマネージャーがしたいと言っていた。その顔は少し寂しそうではあったけれど、強かったと思う。


「…サム」

「なんやツム」

「俺、小4時に来たセッターのおっちゃん見てからセッター目指したけど、選手に尽くす自在なプレーははなこちゃん見て真似したんや」

「そんなん言わんでも見とったら分かったし」

ディスクを取り出し、ケースにしまった侑は真剣な表情でそう言った。

「…俺がはなこちゃんの夢継いだる」

「…俺も」



思い出した二人。
あの時交わした言葉_______________。




『負けてもた。…侑くんと治くん完璧やわ。全国一番とってきてや』

少女は泣きながら二人を賞賛する。
すると侑は少女の左手を、治は右手を取って握る。

「当たり前や!」「任しとけ」

『私の夢、二人に任せたで』

それはたしかに幼い頃の会話。
しかし、本気でバレーに向き合い、幾度となく戦ってきた三人にとっては本物の夢。




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