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オリエンテーション合宿6


オリエンテーション合宿二日目。

生徒の親睦を深めるため、施設のグラウンドにて、クラス対抗の球技大会が行われる事になっていたが、タイミングの悪い事に開会式の途中で雨が降ってきた。

「ヤバ!雨やん!」

「うわだっる、髪セットしたのに」

「体育館の方がええわ」

愚痴る生徒に喜ぶ生徒と、反応は様々だが、明らかに愚痴を言っている生徒の方が多い。
マイクを持った教師が「中に入ってください、体育館でやります」と指示を出し、さっきグラウンドに出てきたばかりの生徒達は、すぐにまた施設に戻る事になった。

「なーなーはなこちゃん!」

さっきまで三人でいたが、治と角名が少しだけ先に歩き出した。急いで追いかける理由のないはなこがその二、三歩後ろをなんとなく歩いていると、急にクラスの女子数人に声をかけられた。その中には、例の学級委員長もいた。

『なに?』

「昨日バスで侑くんも治くんも付き合ってへんて言うとってんけど、それホンマなん?」

『ほんまやで』

「あんなイケメンやのに!?一回も?」

『うん(……一回とは?)』

はなこは、寝とった間にそんな話しとったんやと思いながら、これまでの短い人生にで最も聞かれ慣れている質問に淡々と答えれば、はなこを囲っている女子が一斉に羨ましがった。

「幼馴染なんやんな?なあなあ…双子のタイプ教えてーや、どんな子が好きなん?」

「ええなー幼馴染!たまに"ハナ"って呼ばれてへん?アレって双子がツムとかサムって呼んどるやつと合わせとん?」

『うん、まあそんな感じ。たしか小学校の時に二人につけられた』

「えーなぁ、高一であんな男前絶対おらんし、どっちでもええから付き合いたいわ」

キャッキャと騒いでいる女子の中心で、ポツンと立ち尽くすはなこ。「こらそこの女子!早よ行け!」と先生が注意するが、はなこは動きたくても、グイグイくる彼女達が退かない限り動けなかった。

すると、燥ぐ女子に囲まれたはなこが突然、『どっちでもええゆうんは……失礼ちゃう?』と呟いた。その表情には怒りも悲しみもなく、いつものおとなしげな顔だった。

「真面目か!」

「じゃーウチは侑くんの方かな!」

「わかる!侑くんおもろいもんな!めっちゃ喋るし!」

なんとなくゆっくり歩き出した女子達。はなこも同じように歩く。彼女達の意見は殆どが侑派に別れた。同じ顔でも分かりやすい方が好き、ということだろう。


『…ツムは、やめた方がええと思う』


ーー シトシトと雨が降る中、はなこはただまっすぐ前だけを見て、そう言った。

入学してから約一ヶ月の間、双子で目立っているのは確かに侑の方だ。昨日のことで言えば、隣のクラスのバスに乗るために、空気を読んで愛想のいい笑顔と態度を振りまいたりする事が出来るのも、侑の方だ。
故に、侑の方が女子に人気なのは必然ともいえるが、小学校の頃から四六時中行動を共にしてきたはなこは、そうは思わなかった。

「…なんで?…てか、付き合い長いか知らんけどさ、さっきからなんなんその態度」

「幼馴染やから、侑くんも治くんも私のモンです!ってか?こーわ、キンモ」

「ホンマそれ、」

双子は当然双子だから、顔も性格も似ている部分が多いし、負けず嫌いなところは本当によく似ていると思う。

けれど侑は、侑よりセンスのある治が持っていない、" ただの負けず嫌いでおさまらない何か "
を持っていると、間近で見てきたはなこはよく知っていた。

野狐中バレー部時代、次の日がイヤになるようなハードな練習の後も、侑だけは体育館に残って一人で毎日自主練をしていた。侑の自主練には、治もはなこもよく付き合っていたが、「先帰って」と言われることも多く、毎日残って自主練をしていたのは侑ただ一人。

『…だって、ツムって』

彼の実力と自信と拘りが人一倍強いのは、
その努力の積み重ねと、" セッターとして、スパイカーに誰よりも完璧で最高のトスを上げる " 、という単純な目的が理由だ。

そしてそのストイックさから、自分の上げたトスを打ち損なうだとか、とにかく台無しにされるような事があれば、チームメイトだろうが先輩だろうが、侑はその都度キツく当たる。

それ故に中学時代は、侑の事をよく知る部員ほど、侑を嫌い、避け、逆に侑をよく知りもしない人間ほど侑に寄り、好意を持っていた。

『サムもやけど、ツムは特に、今は彼女とか欲しないとおもう』

ーー この時はなこは、
付き合えるならどっちでもいいとか、面白いから好きとか、こんないい加減な連中は侑には必要無いと思っていた。

近づく価値すらもない。
そう、思っていた ーー。