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入学2-双子



「高校からはハナのこと、名前で呼ぶよーにしよ!」

「…急になんで?今もたまに呼んどるやん」

「呼び方二個あるってカッコええやん!」

『それ、ブーメランやん。ツムも同じやん』

「分かっとるわ。俺が言いたいんはシンプルに名前で呼ぶってなんかカッコよないってことや」

「…別に?」『…別に?』

「なんやねんノレやお前ら!!!」




兵庫県稲荷崎高校の入学式前 ーー
学校の玄関前では、振り分けられたクラスの名簿を確認する新入生で溢れかえっている。

『……サム一緒や。あ、あと、角名君』

「はァ!?なんでお前らが一緒やねん!」

「ドンマイ」

一人の少女を挟むようにしてその両サイドに立つ金髪と銀髪の一際背の高い二人が「なんでや!クソ腹立つ!」「日頃の行いじゃ」などと小競り合いを始め、殆どの新入生が集まる中で一番目立っている。

そんな二人の間で、自分のクラスの名簿を
眉のあたりで綺麗に揃った前髪の下から見つめるはなこは、『朝から喧嘩やめて下さいね』と二人には目もくれず、慣れたように呟いた。

「なんやねんはなこ!お前俺と離れてんぞ!?」

なんとも思わへんのかと言いたげな顔ではなこを見下ろす、自己中心かつナルシスト的な思考回路の侑に『なんでそんなキレとん?』と吹き出して笑うはなこ。

「俺らはお前とちゃってガキちゃうから、クラス離れたくらいでいちいち喚かんわ」

「…お前あとで顔面サーブ食らわしたろか?」

周囲では「双子や…顔そっくりや!」「えっ、めっちゃかっこよない?」「入学初日から金髪と銀髪てイカツ過ぎひん?」などと、双子に視線が集まる。

「やってみんかえ」

『まあまあ、それに大丈夫やって、ツムはモテるから』

入学初日から金髪と銀髪に染めてきた、一際背の高い双子の一年生が、真新しい制服姿で言い争っているところだけを見れば、まさか彼らが全国トップレベルのバレー選手とは微塵も思わないだろう。

「いや、なにが大丈夫やねん?」

『あのな、彼女作ったええやん?そしたらな?寂しないで。…知らんけど、ふふ』

「せやな、ダブルデートしよか」

「は?いや、ダブルて、なんでお前がはなこと付き合う前提やねんしばくぞ!!あと寂しいとかちゃうわボケェ!!」

ケタケタ笑うはなことニヤリと笑う治。
そんな二人に侑は、はなこや治とクラスが離れ、寂しくて怒っているわけではない。むしろ寂しいなんて感情は今のところ宮侑の辞書にはない。

『じゃあなんでそんなキレとんよ』

「サムとお前が一緒のクラスで、なんで俺だけ一人やねんゆう話や」

「……日頃の行いちゃう?」

「黙れ」

単に侑は、片割れの治がはなこと同じクラスになったから腹を立てていた。ちょっとしたことで言い合いになったり、意見が対立した時も、大抵治とはなこvs侑の形になるし。

割とマジで不機嫌な侑に治は呆れている。入学初日からコイツマジか、と。

すると、治ですら関わりたくない機嫌の悪い侑の腕に、はなこがポンと触れ、『別にクラス離れただけやん』と言った。
大きな目が侑をジッと見上げている。侑は不機嫌な表情のまま目を細め、はなこを見る。

『サムと一緒遊び行くし、どうせお昼は毎日一緒やんか』

真顔ではないが笑顔でもない顔で話していたはなこが、そこで優しい笑顔を浮かべた。

『な?』

ーー でた。たまにあるやつやと治は思う。
それはたまにみせる、可愛い笑顔。勿論はなこが元から可愛いことは誰よりも知っているが、笑顔がプラスされたはなこはもっと可愛い。

「…ま、サムと離れただけマシか」

「ああ、せやな、俺もお前と離れられて良かったわ(…チョロ)」

それは、二人がはなこを好き放題振り回しながらも離さない理由の一つだった。