テスト期間22-侑編
「お前に関係あらへんやろダボ」
いくら気の強い人が年下に好きかと聞かれても、はいそうです、と答えるわけがないのは当然である。
オラついてくる先輩のしつこさも、背後で煽る侑のことも、そろそろめんどくさくなってきたはなこが『もうええやん、行こうや』と言うと、「せやな」と侑は返し、二人は先輩に背を向けた。
しかし、この先輩はしつこい。
年下の女子に真顔で淡々とあしらわれたことで更に怒りが増し、「待てや、お前もさっきから何様やねん」と、自分に背を向けたはなこの肩に手を置き ーー 力任せにその手を強く引いた。
『 ーー っ!』
当然そんな事をされるなんて予期していなかったはなこの身体は簡単に後ろへ倒れてゆく。見ていた治も角名も目を見開いて驚いている。
ほんの少し遅れて気がついた侑が振り返って、手を伸ばしたその時 ーー
「っぶなー!お前何してくれとうねん!」
はなこの身体を右腕一本で支えた尾白アランが、空手部主将にキレた。
「…尾白け。お前までなんやねん」
「いや、俺が聞いとうねん。ウチのマネージャーになにしてくれとんねん。俺が来んかったら今頃コンクリートに頭を打ち付けとったかもしれんねんぞ!?」
購買に来る途中だった尾白は、購買前ではなこと侑、そしてその背中を睨みつける空手部主将の3人を少し離れたところから見ていた。
また侑がなんかやらかしたのをはなこが間に入ったか、それとも別の何かなのかは分からないが、何かが起きているのは確実だな思っていたら、空手部の主将がいきなりはなこの肩を持って強く後ろに引き、はなこの軽い身体はその力によって簡単に後ろに持っていかれた。
尾白は反射的に走っていた。
そしてブチギレるのは尾白だけではない。侑もだ。
「お前の後輩が揃いも揃って三年に偉そな態度とるからや!」
「いや、待てや、お前がはなこに絡んできたんやんけ。ライン教えてくれいうて、断っとんのにしつこー言うてきて」
『………』
「挙げ句の果てに無視してメシいきよったら、俺やなぁて女に手ェ出すとか ーー 」
完全に空手部の主将が悪いはずなのに、目の前で本気で怒っている尾白と侑を見ると、罪悪感に苛まれないわけがなかった。自分がもっとキッパリ断っていたら、こんな事にはならなかったはずなのに。
形勢逆転し、今度は侑が先輩に殴りかかりそうになっている。それを治と角名が止めに来て、さっきまで一番キレていたはずの尾白は、はなこがシュンと眉を下げて黙り込んでしまったことに気づき、大きな手をはなこの背中にトントンと二回ほど当てて「大丈夫か?」と、優しい笑顔で言った。
『うん』
この場に泣く子も黙らせる北信介がいれば、
この自体を簡単に、かつ素早く収められるだろうが、彼は基本的に弁当持参で購買には来ない。
「侑もええ加減にせえ!あんな奴はほっとけ!あいついっつもあんなんやから。とりあえず部室や部室」
「…」
逃げるように去った、空手部の主将。
『つむ…』
「ヒィ〜、あの人ヤベーな」
「それな。でも煽るツムも悪い。ああいう時のアイツの顔は確かに殴りたなる」
機嫌を悪くした侑は尾白を無視して一人で部室の方へと歩き出し、「ほんまガキやな」と呆れながらも、今は一人にしてやる方がいいと治は判断し、追わなかった。
『ありがとう、アランくん』
「かまへんけど、大丈夫か?ほんま危なかったなー、アイツホンマ何考えとんや!てか、そんなしつこかったんか?」
『うん、めっちゃ。でも…ツムが一言二言余計なこと言うたんも事実』
「そうか……まあ、せやろうな。やとしてもやってええこととアカンことがあるわ……て、どこいくねん!?」
はなこは突然走り出した。機嫌の悪い侑を追って。
「ツムんとこやろ」
「はなこマジでオカン。機嫌わりーのはなこのせいじゃねーのにね」
「…ほっとけんのちゃう。あのままいけばテスト中は寝腐るわ、他人に当たるわ。今日の帰りも…下手したら明日まで引きずるやろうからな」
侑の性格も、それに対するはなこの行動もお見通しの治。
尾白は「…ええなあ!幼馴染って!」とはなこの優しい行動が心に響いていた。
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