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テスト期間21-侑編



高校生とは、多感な時期だ。




テスト開始5分前に登校した侑はギリギリ遅刻を免れた ーー その昼休み。互いに声をかけあったりせずとも侑とはなこは一緒に購買に行く。

『なあツム。今日な、真ん中の兄ちゃんがおにぎり忘れてったん持ってきたんやけど、食べる?』

「たべる!」

治がいない場所ではなこのおこぼれをゲットした侑のテンションが上がる。

「なにしよっかな〜」

昼飯を買いに来た侑は何を買うか、購買の前で悩んでいる。近くの女子は明らかに喜んでいた。

そんな様子を購買に並ぶ生徒達の後ろで見ていたら、突然背後から「なあ」と声をかけられた。
はなこが振り返るとそこには、三年で空手部の主将とエースの両方をつとめる先輩がいた。
侑ほど背は高くないが、バレーとは違う、直接人と闘う為の筋肉がしっかりと鍛えられていることが制服の上からでもよく分かる。加えてルックスもよく、ツーブロックの髪型と合わせれば男前なイカツイ系といったところだろうか。

そんな彼がはなこになんの用があるのだろう。

『はい…?』

「男バレマネのはなこちゃんやんな?」

いきなり下の名前で呼んでくる ーー イカツさとチャラさを兼ね揃えた見た目通りの人だなとはなこは思ったが、相手は一応先輩だ。…一応。無視するわけにはいかない。

『はい』

「名前な、後輩に聞いてん!はなこちゃんと同じクラスの空手部のやつ。いやー、たまーに見かけとったんやけど、目の前で見たらホンマに可愛いなあ!」

『そんなことないですよ』と笑顔を浮かべるが、内心では『侑、はよ』を連呼。このチャラ男は絶対にめんどくさいと確信していた。

「俺空手部の主将なんやけど、知っとる?」

『あー…はい、知ってます。IHベスト8の』

「そーそーそー!うわぁ知っとってくれたんバリ嬉しい。なあ、はなこちゃんライン教えてや!」

そう言ってスマートフォンをこちらに向けている空手部三年主将はなぜ、教えてもらえると既に確信しているのだろうか。

「あかん?友達なりたいなあ思っとってんけど」

周りの視線も集まっているこの中では流石のはなこも『ごめんなさい』とは断れないので、話を無駄に長引かせて侑を待つ方向にした。

『あー…えっと、私の名前教えたのってうちのクラスの空手部の誰ですか?喋ったことないのに、知ってたんですね…(友達で済まんヤツや絶対)』

「んー?ああ、杉原いうやつ。坊主の。それよりなあ、はよライン教えてや」

あれっ?なんか圧が…。あと、目付き変わってない? つまり侑が来る前にコトを済ませたいのか。

すぐに教えてもらえなかったからか、突然態度を変えてきた空手部主将。この作戦は失敗だ。作戦B(用意してない)に移ろうとはなこが思ったその時だった。

はなこの左肩に右腕を置き、もたれかかりながら「なにしとん」と若干不機嫌そうな声をした侑がグッドタイミングで現れたではないか。

「ミャーツムやん!ええなー!俺も金髪にしよかな!?」

バレー部での圧倒的な活躍、学校での人気、
双子と分けて染めた金髪の仙台刈り、身長 ーー 何もかも自分以上の物を持っている侑を盛り立てるように、少し上から目線で先輩っぽさを出しながら、空手部の主将は侑に話しかける。

対して侑ははなこの左肩に右腕を置いたまま、そわな先輩をつまらなさそうに見下ろしていた。

「で、はなこちゃん、ラインはよ教えてーや」

ーー 命知らずなのか、怖いもの知らずなのか。
ついさっき購買に来て、この光景を外側から見ている治と角名は同時にそう思う。

侑とはなこ、そして治とはなこの距離は誰よりも近く、スキンシップも多い。しかしはなこはそのどちらとも付き合っていないというのは、信じられようが信じられまいがこの学校の大体の生徒が噂で耳にしている。

とはいえ、侑がはなこの肩に腕を置いてもたれかかっているのにも関わらずそう言った空手部主将。

侑や治がこういったスキンシップを周りに遠慮することなくやる相手は、はなこしかいない。確かに付き合ってはいないが、その時点で他の誰かより特別だということは明らかだ。

「教えんでええで。メシ冷めるわ、行こや」

『じゃあ失礼します』

治と違って侑は相手が誰だろうと思いをしっかり口で言うから、こういう時の侑は助かるなとはなこは思う。

侑ははなこの肩に置いていた腕をはなこの背中の方に下ろすと先に歩き出した。はなこよりもはるかに背の高い侑が歩けば必然的にはなこを押して歩かせることになる。

「いやいや待てやミャーツム。俺ライン聞いただけやん。お前はなこちゃんの男ちゃうのに、何様のつもりなん?」

購買前の空気に緊張感が走る。
明らかに侑を煽る空手部主将に、ポケットに手を入れた侑は主将の方に顔だけ振り返った。

「うーん……何様やろなあ……俺様かな?」

『俺様やろな、完全に』

完璧に煽り返した侑は、自分の方が背が高いのに、金髪の前髪の下から覗き込むよに先輩を見ている。「なんやねん、やるんか」と侑に向かってズカズカと先輩が向かってきた時だった。

『殴るんですか?空手部やのに』

先輩を止めるようにはなこが侑の前に出ると、はなこの背後からはなこの耳元に顔を持っていき、「はなこ、この人引退しとるで」と侑がわざとらしく言った。

格闘技をしている者は、その技を試合や練習以外で…つまり、一般人に振るうことは固く禁じられている。それなのに今にも手を出してきそうな先輩をはなこの背後で煽る侑の性格の悪さは普通じゃない。

『この俺様は私が後で一発殴っとくんで、先輩は殴らんといて下さい』

「えー、なんで殴られんねん俺」

一体どんな経験を積み上げたら、もしくはどんな環境で育ったら、自分より背の高いガタイもいい男子を庇いながら、格闘技系のイカツイ先輩に"真顔で"立ち向かえるのか。

はなこをよく知る治や角名は、はなこならやるだろうなくらいに思って、特に驚きもせず見ているが、他の生徒にははなこの行動と言動は到底理解出来ない。

「腹立つなぁ二年のくせに。退けや、コイツは一発殴らな気済まへん」

『無理です、ツムは全国控えた大事な選手なので』

ーー 少しだけ頭を下げ、前髪で目元が隠れている侑の口角が上がっているのは、片割れの治にしかわからない。

愉悦にも似た感情で、侑はこの状況に対して満足げな笑みを浮かべていた。

はなこが自分を贔屓することが嬉しいのだ。

「めっちゃキレるやん。あ、もしかして先輩、はなこのこと好きなん?」

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