テスト期間10-双子編
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テスト期間中は部活動がない。
もちろんそれは、今年のIHで準優勝の結果を納めた男子バレーボール部も例外ではない。
部室で一騒ぎしたあと、三年の尾白アランと宮兄弟、そしてはなこのいつもの四人でバスに乗り、宮兄弟とはなこが先に降りた。
「はあ……明日も明後日もテストか。おもんな。はよバレーしたいわ」
『朝勝手にやっとったヤツがよう言うわ』
「あんなもんはボール遊び… ーー やッッ!!」
テスト漬けで凝った肩を回したかと思うと、侑はいきなり助走をつけて走り出し、エアジャンプサーブを打った。本人は何気なく走って飛んだだけのつもりだが、綺麗で完璧なフォームと、空気を切り裂くようなパワーは流石としか言いようがない。
そしてそれに続くように治は高く高くエアブロックを飛んだ。
二人ともバレーがしたくてしょうがないのだろう。
『怪我せんといてや』
「てか明日世界史あるやん、ダル…。世界史の先生バリ性格悪いし。毎回テスト範囲とテスト内容ちゃうやん」
『確かにあの先生ごっつ意地悪よな。特にバレー部には当たりキツイ』
明日のテストや、その教科担任の話をするはなこと治。その側で「俺には世界史も日本史も歴史も関係あらへん!俺が世界や!」などと支離滅裂な妄言を吐く侑に、今朝もさっきの部室でも、尾白が一生懸命侑に話した事が "また" 無意味だったとわかり、はなこも治ももう呆れて言葉が出なかった。
『もう一個のほうの英語もあるな。今から勉強会やる?』
はなこは隣の治に言ったつもりが「やる!」と答えたのははなこと治の間に割って入って、治をはねのけた侑だった。
「いった…」
テンションの差にしばき返す気にもならない治だが、目はしっかりと侑を睨んでいる。
「お前勉強せえへんやんけ。邪魔すんな」
すると、はなこが前を見たまま『なぁ、ツム。男に二言ってあるっけ?』と呟いた。その表情からははなこが何を思って今それを聞いたのかは分からない。
侑はキョトンとした顔で「なんやねん急に?男に二言はないやろ」と堂々と答えた。
『なら、勉強やろな?』
「勉強"会"には行くけど、勉強はやらへん!」
ーー そういうだろうと思っていたはなこは、ニッコリと笑った。
殺人スマイルや、殺人スマイル。こいつ侑を勉強させる気満々や…と、はなこの笑顔から色々察した治は面白そうにはなこの次の言葉を待つ。
『やる言うたやんさっき。男に二言はないとも言うた』
「ズルイではなこ。それとこれとは別や」
侑の反応も表情もまだ、いたって普通だ。
しかし治にはわかる。後数秒後には侑が勉強をする流れになることが。
『じゃあ春高でーへんの?』
「はぁ?なんで春……、…!」
怒るでもなく悲しむでもない、いたっていつも通りの顔で尋ねてきたはなこの顔で" 赤点取ったら大会に出られへん "と散々尾白アランに言われたことを思い出した。
「いやでも、大丈夫やろ。だって一年時もいけたし」
とは言うものの、明らかにさっきまでの自信満々な顔とは違い、どこか不安げな表情になった侑にはなこは続ける。
『じゃあ万が一ホンマに出さへんて言われたら、どないする?一年目は許しても二年目まで許すほど、黒須先生甘ないと思うなぁ』
9割本音、1割は大袈裟に言うはなこにとうとう侑は歩みを止めた。
「どないしよう」
立ち止まって真剣な顔で焦る侑の前に、はなこがトンッと着地すると、ニッコリ笑ってこう言った。
『一緒頑張ろ?』
一瞬ドキッとしたであろう侑から視線をはなこに移し、治は思う。
この駆け引きといい流れの持っていき方といい、そして最後のその笑顔といい ーー いったいどこで学んだんだ、お前はエスパーかと。
はなこは人を乗せるというか、その気にさせるのが頗る上手い。
「ありがとう!!よっしゃ、待っとけよ春高!」
『そのかわり侑がお菓子持ってきてな。はなこカプリコ。サムは?』
「ポテチ」
よし、仕事は終わったと言わんばかりに再び歩き出したはなこに「お前ホンッッマ上げて落とすよな!?なんなん、可愛ないで!?」と吠える侑の内心はこうだった。
「(さっきのトキメキ返せや!!)」
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