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テスト期間9-北と祖母


( 北と北の祖母のみ )


「ただいま」

玄関に入ると、朝と同じく割烹着姿の祖母が濡れた手を拭きながら迎えに出てきた。

「おかえり、信ちゃん。テストどうやった?」

ちょこんと座って にこにこにこにこと返事を待っている祖母に、北は脱いだスニーカーを揃えながら答える。

「普通やったわ」

「それがいちばんや」

満足そうに頷いて立ち上がり、孫のあとをついて歩きながら祖母は続けて訊く。

「学校、楽しかった?」

「普通やった」

「ほんならよかったなあ。せや、干し柿な、試しに食べてみたらちょうど美味しかってん。食べるやろ?」

「うん」

手を洗って、部屋着に着替えた孫がちゃぶ台に着くと、そこにはもうぽってりとした干し柿とお茶が用意されているのだった。ひとつひとつの動作はどちらかというとゆっくりしている祖母なのに、お茶やお菓子の用意となると素早い。なんでやろな、と北は思う。

「いただきます」

手を合わせ、干し柿を口に入れたそばから祖母が訊いてくる。

「な、うまいやろ?」

「うん、うまい」

そして熱いお茶をひとくちすすり、窓の外、冬空の下にまだいくつも吊るされている干し柿を見て、「これ、毎日食べなあかんのかなあ」と思いつつ干し柿を口に運ぶと、そういえばと今朝のことを思い出す。
登校中、部活の後輩でもありマネージャーでもあるはなこに今度干し柿を持ってくると言ったことだ。

「…そういえば今日、はなこに干し柿好きか聞いたら、好きやいうてたで」

「ええ、ほんまに?ほんならさっそく明日持ってったげて」

「うん」

祖母はまた立ち上がると、窓を開けてどの干し柿を持って行ってもらおうか、何個あげようか、家族の分もあるほうがいいか、などと楽しそうに話している。

「信ちゃん、今年も遊びに来おへんかなあ、はなこちゃん。去年の冬、一緒に編み物したの楽しかったわあ。よう覚えとるんよ」

「楽しそうやったな」

「今時あんな可愛らしいこが編み物好きなん、めずらしいやんなあ。あの子はぜったいええお嫁さんなるわ。信ちゃん、あんな子どうなん?可愛らしいで」

「うん……まあ、可愛らしいなとは思うけど、」

ーー 北の最近の悩みは、祖母が今から自分の結婚式を楽しみにしていることと、去年編み物を教えて欲しいと連れてきた部活の後輩ことはなこを気に入っていて、この話になるたびに「はなこちゃんをお嫁さんにどうや」と言ってくることだった。

「可愛らしいよなあ。賢そうな顔しとったもん。勉強もできるんやろうなあ」

「うん」

そういえば去年のちょうど今頃、同じテスト期間中にはなこは北の家に来て、北の祖母に編み物を教わっていた。

そのきっかけは、祖母が毛糸で作ったコースターを作りすぎたとの事で「信ちゃん、部活に女の子おるって言うてへんかった?…マネージャー……やったかいなぁ。これ、作りすぎたからその子に」と渡されたコースターをはなこに渡したことが始まり。

信頼できる後輩のはなこは、優秀なマネージャーで、心根の優しい奴だと思っていたが、だとしても正直今時の高校生が毛糸のコースターを貰って喜ぶのだろうかと内心不安にも似た感情を抱いていた。

しかし、コースターを渡したはなこの反応はそんな感情が無駄だったとすら思うくらいに、明るい笑顔を花のように咲かせて喜んでくれた。
そしてその時、『実は手芸が好きなんです。でも、編み物が全然出来なくて…』と打ち明けたはなこに「ばあちゃんに教わるか?」と提案したのが、北の祖母とはなこの接点の始まりだった。

「明日、聞いてみよか。来おへんかって」

「ええ、ほんまに?わあ、嬉しいわ。ほんなら聞いてみよかな、信ちゃんどないですかって」

フフフと笑いながら、はなこに渡す沢山の干し柿を楽しそうに袋に詰めている祖母に「それはやめて」とも言えず、ただ黙ってその動きを見ているのであった。

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