テスト期間8-部室編
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黙り込んでしまった北に部員たちは、
もし「やっぱり出る意味ないわ」とか言われて、そこにめちゃくちゃしっかりした正論がくっついてきたら、俺たちどうしたらええねん ーー という恐怖に襲われていた。
そんな部員たちのことも、主将の北のことも気にしない侑はまた勝手に話し出すのだった。
「勝って、勝って、春高行ったら、今度は強い奴ばっかごっつおるわけやろ?それが好きやねん」
「せやったら、赤点とんなや!」
即座に尾白にきり返され、侑はふてくされ顔で「それとこれとは別やし」と言い返すと、今度ははなこが『別ちゃうわ』とつっこんだ。
「えー」
などと、騒ぐ尾白と侑、そこに突っ込むはなこを見ながら北はようやく重たい口を開いた。
「べつにテストでええ点とりたいとか、ええ学校行きたいとか、身の丈にあわへんことをしたいとかは思わへんけど。でも、せやな、春高出られるんは、うれしいな」
しかし残念ながら、満を持しての北の言葉は、部員たちの騒がしい言い争いにかき消されて、"ただ一人の"耳にしか入らなかった。
『身の丈にあわへんこと、ないと思いますよ。北さんいっつも成績上位やし』
騒がしい部室の中、図体のデカい男子と一緒にいたはずのはなこはいつの間にか北のすぐ近くにいて、北の隣に立つと、一緒に騒がしい部員たちを眺めながら会話を楽しむ。
「それ以上でもそれ以下でもない、いうところやな」
『うーん』
たとえバレーであっても、侑や治みたいな野生の本能のような欲望は北にはない。いつも練習していることを、いつも通りやる。勉強なら、これまでやってきたことを、それ以上でも以下でもなく、ただやる。
目の前に出されたものを、自分の持っている能力でいつも通りに淡々とこなす。そこにはいつも以上をやろうとする欲も、緊張や焦りといった負の感情もないーーそれが北信介だった。
『北さんて、本間に高校生ですか?』
口元に手を当て、ふふっと笑いながら北を見るはなこに「高校生やで」と即答の北。
「けど、はなこにも時々、そう思うことがあるわ」
大人に見えるという意味で北にああ言ったはなこは、てっきり北が自分を大人に見えるという意味で言ってくれたのだと思い、『えっ……大人っぽく見えますか?』と照れ臭そうに、そして嬉しそうに言った。
「いや、オカンとか」
ガーン。
真顔の北に悪気などあるわけがない。
上げて落とされたような気分にはなこは思わず自分で効果音を言いそうになった。
『オカン…ですか、……つまりおばさんぽいってこと…ですか……』
部室に入った時に、肩を落としてパイプ椅子に泣きついていた尾白のようなテンションになるはなこ。
双子の尻拭い的なことや喧嘩の仲裁をしていると、クラスメイトや担任に同じような事を言われたことがあるけれど……何故だろう。
言われる相手が違うだけでここまでショックを受けるのは。
「いや、見た目の話やなくて。普段から双子の面倒よう見とるやろ。俺は基本部活の時だけやけど、はなこは家も近いし、一番手の焼ける侑はクラス一緒やし。それでも毎日嫌になって放り出す事もなく、面倒見続けとる姿勢がオカンぽいなと思って」
『………よかったー。見た目がおばさんぽいってことかと思って、北さんにおばさんぽいとか言われたらショックで暫く立ち直られへんどないしよとか思てました…』
安心した様子で笑うはなこに北はフッと鼻で笑いながら「褒め言葉や」と言った。
ーー そんな仲良さげな主将とマネージャーを、こっそり横目で見ていた数人の部員達は「北さんが笑った」と驚いているし、北と同じ目線で話せるマネージャーに関心した。
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ーー 以下、余談。
角「お似合いじゃね?」
侑「いーや、俺のんがお似合いや」
治「それッッッだけはないわ」
侑「は?なんやねん」
治「お前がなんやねん」
銀「北さんて彼女おらんのかな?もしおらんのやったら…」
治「いやー……アカンな。北さんでも」
侑「あかんで!いくら北さんでもアカンもんはアカン!」
角「いや、はなこはお前らの何なわけ」
侑/治「実質幼馴染」
銀「でも、もし北さんがはなこと付き合ったらめっちゃ大事にしそうやんな。風邪も引かさん、デートは遅刻せん、手も出さん、絶対一途」
治「俺も一途や。デートは遅刻するかもしれんけど、アイツなら許してくれるやろ。手は出す」
銀「真顔でサラッと言うな、サラッと」
侑「俺かて一途やで?風邪は自己管理やろ?デートも遅刻したなかったら家で遊んだええねん。手は出す」
角「二人揃って最後同じかよ。"ハナ"チャン可哀想だわ」
銀「ほんまにな、最低丸出しや。"ハナ"チャンの幸せ願うなら北さんとくっついてもらうしかないな…」
治「北さんライバルやと、付き合い長いのに明らかに劣勢やぞツム」
侑「劣勢ちゃうわ。俺はいつでも優勢や」
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