キツネのお正月7
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「残りの餅、誰か持って帰るー?」
公園で走り回っていた三人が息を切らしてはぁはぁと白い息を吐いていると、餅の乗ったトレイを持ったおばさんの周りに子供たちがわらわらと群がっていく。当然それを見た双子も叫んだ。
「あ、俺も!」
「おばちゃん、待って!俺も餅!」
『あんだけ走ったくせになんでそんな元気残っとんか不思議でたまらんわ…』
座っていたブランコから立ち上がった。
ゴミ袋やら餅つきの道具やらを、公園を出てすぐ傍に駐車してある軽トラックにおばさんやおじさんたちが乗せるのが見えたはなこは、お土産のお餅を貰って喜ぶ子供達の声を聞きながら、手元の紙皿を直接軽トラックまで捨てに行くことにした。
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「…はなこか。こんなとこで何しとん」
はなこが軽トラックのゴミ袋に紙皿を入れて、パンパンと手をはたいて手についたきな粉を払っていると聞き慣れた声が聞こえた。
振り返ってみると、どういうわけかそこには稲荷崎高校男子バレー部主将の北信介が立っていた。
北も双子と同じく元日から普段と同じようなウィンドブレーカー姿だ。
『あっ…こんにちは。先輩こそ。私はこの公園で餅つき手伝ってたんです、親の代理で』
「親の代理?…元旦から偉いな。俺はランニングの帰りや。けど、ばあちゃんに頼まれたもん持っとるから帰りは走られへんし、それで歩いとった最中」
そう言って北は右手に持つスーパーのビニール袋を少し持ち上げてはなこに見せた。
『先輩こそ元旦からさすがですね。あ、そういえば中に双子もおるんですよ。急に来て餅つきして、そうかと思たらツムが餅喉に詰まらせて死にかけて』
「…元旦早々双子て、ホンマに大変やな」
北の事だから表情を大きく変える事はない。けれど本心から同情しているのははなこにはしっかり伝わっていた。
すると、急に公園の中が騒がしくなった。
お土産のお餅をもらった何人かの子供が笑いながら走って公園を出るとすぐにはなこを見つけてこう言った。
「はなこ姉ちゃん!また喧嘩しとるで!」
『えー、また?』
「双子の喧嘩、俺ン家より酷いわ!」
「だって餅一個でマジ喧嘩やもん、子供や!」
『もー知らんわ…』
キャッキャキャッキャと騒ぎながらはなこに報告すると、そのまま子供たちは「バイバーイ!」と走って帰っていった。
残された北が先に公園に入っていった。はなこもそれに続いて恐らく絶賛喧嘩中であろう双子の元へ。
「なにしとん」
たった餅一個の為に大喧嘩をしている侑と治の元へ北とはなこが到着する。
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