キツネのお正月4
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餅をこねている宮兄弟が小さい頃からバレーが強くて、稲荷崎高校で今大活躍しているのはここにいる誰もが知っている。
勿論はなこがそこでマネージャーをしていていて、仲の良い(?)この三人が毎日一緒に登下校しているいうこともだ。
聞かれるのはこれが初めてじゃない、小学生らしい質問に治は焦りも動揺もせず餅を丸めながら答えた。
「どうって、ツレやな。あとはバレー部のマネージャー」
「ふーん。なー!侑兄ちゃんはー?」
一人の女子が男子達と餅をこねて戯れる侑に呼びかけると、そっち側にいた男子達は何が何がと盛り上がる。
「はなこちゃんのことどう思っとるん?治兄ちゃんは友達とマネージャーやって〜」
「なんやその小学生丸出しの質問は!そんなんで俺を試そう思とったら百年早いわ!」
てっきり治に対抗すると思っていたミーハーな女子達はつまらなさそうな顔でガックリと肩を落とし、対して男子は侑のドヤ顔にゲラゲラ笑っている。
「治兄ちゃんと侑兄ちゃんやったら、はなこちゃんどっち選ぶかな?」
「「俺やろ」」
キレイに揃った双子の声に、子供達はまた笑う。
しかし侑と治は全く笑っていない。バチバチと火花を散らして睨み合っている。
「お前みたいなワガママで嘘つきで人の話聞かんヤツははなこに関わらずどんな女でも嫌がるで」
「嫌がるかい。俺の名前入ったうちわ持った女子どんだけおる思てんねん」
うわ、ナルシストや!と言う女子に、マジで?そんなんおるん?と興味津々な男子。
しかし「いやそれ、俺もな」と治の図星かつ的確なツッコミ。
「俺はお前みたいにワガママ言わんし嘘つかんし人の話も聞くからなぁ」
「はぁ?」
「聞こえんかった?俺はお前とはちゃう言うてん」
喧嘩が始まりそうなムードに、「またや」と呆れる女子達。男子達はやれやれと二人の喧嘩を盛り上げる。
今にも餅を投げそうな侑の頭に、ポンと何かが触れた。
『小中学生のみんなはお餅もらっておいで』
「わーい!」
「餅ー!」
長机の所には未だに睨み合う侑と治、そしてはなこだけになった。
はなこは侑の頭に触れていた手を離すと、もう片方の手で持っていたお皿にのったお餅を箸で摘んで侑の顔の前に持っていく。
侑は間髪入れず、一気に目の前の餅を食べた。
「なんやねん、」
侑だけズルイと言わんばかりの拗ねた顔で長机から身を乗り出す治に、はなこは箸を反対にしてまた餅を摘み、食べさせた。
『おいしい?』
「んまい。やっぱつきたてはちゃうな」
『もっともらってきたら?』
「もらってこよ!」
治よりも先にとすぐさま走って餅を貰いにいった侑。
そんな侑を見ながら『小学生より小学生やな』と笑うはなこの横顔に目だけを向ける治。
「はなこは食べんの?」
『食べるで。つきたて食べたいかなー思てん。ついたん二人やし』
「めっちゃふざけてたけどな」
『せやな』
出来立てを持ってきてくれたはなこは優しい。どこかの金髪とは大違い。いっそのこと交換したいとすら治は思うのだった。
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