キツネのお正月2
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「揃いも揃ってお前らは俺の杵さばきが信用できん言うんか!」
「できるかボケ。さっき素振りしとったやんか、餅でホームラン打つんか、指どころか頭潰れるわ」
『真っ先に横に振ったもんな。侑餅つきやったことないんかなって思った』
「うっさいあるわ!あれはウォーミングアップや!!」
『やったら治が打ったら?侑がペッタンペッタンして』
「セッターが指、怪我したら洒落ならんやんか」
ここまでの会話で本当に自分の事しか考えていない侑に治は心底あきれた様子で「勝手か」と吐き捨て、『ほんまにな』とはなこも続く。
よくこれでNo.1セッターになれたものだと治は改めて思った。
餅をつきたいから手伝えという侑に、指潰されるから嫌やと断る治。
すると睨み合う二人の間へ「まあ、まあ、まあ、まあ!」と、おじさんとおばさんが割って入る。
「そない言わんと、おっちゃんに、若い子が頑張っとるとこ見せたって?」
「そうそう、会長の顔に免じて仲良くしたって、な?」
「侑ちゃんと治ちゃんのついた餅、おばちゃん食べたいわー」
突然の喧嘩に慌てる様子もない。
すっかり慣れきったその手腕から、子供のころから二人の喧嘩を止めてきたことがうかがえる。
『疲れたら、変わったげるで』
逃げ場のなくなった治を察した親友が笑いかける。しかたないなと折れた治は「……ほんなら、まあ、やろか」と重い腰を上げたのだった。
「はなこ撮っといてや」
やる気満々で腕まくりを始めた侑に撮影を頼まれるはなこはエプロンのポケットに手を当てるが、その中にスマホが無いことに気がつく。
『あっち置いてきてもた』
「ほんな俺ので撮って!」
ほいっと投げられたスマホを『はいはい』と言って受け取ると、すぐにカメラを起動した。
ロック画面の待ち受けは春高を決めた時の写真だった。
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「どらァァッ!」
「ほい」
「うりゃァァッ!」
「よっ」
しかし、案ずるより産むが易し。始まってしまえば話は早い。おじさんおばさんに囲まれる中、双子は餅をつく。
その様子をはなこが動画撮影していると、じきに近所の子供達が「もちやー」「もちつきや」と集まってきた。
餅つきに群がる子供達の顔を見て、杵を振り上げた侑がニヤリと笑った。
「サム、スピードアップや!」
「……はァ?うわッ」
危険を察知した治が咄嗟に手を引っ込めたもち米にパチーン!と杵が振り下ろされる。
「あっぶな!」
『今のは危ないわ』
はなこは動画越しに笑いながら侑にそう言うが、本人には全く聞こえていない様子。
治が立ち上がって文句を言うが、侑はケタケタ笑いながらまた杵を振り上げた。
「うおりゃああ!さらにスピードアップ!高速連打工法で滑らかさアップ!当社比!」
「やめ!なんやねん、当社比って!」
『巻き込まれし治』
双子が始めた高速餅つきにゲラゲラ笑う子供達。さらに調子に乗った侑は杵を下ろすと見せかけ途中で止め、そして時間差で振り下ろした。
「うわ!一人時間差すんなや!危ないやろ!」
「敵を騙すには、まず味方からや!」
「ドアホ!」
『あー、電池きれそうやで侑。はよ終わらして』
「わかった!もっと速くやな!?」
「ちゃうわ!いらんこと言うなやはなこ!」
餅つきをする二人を囲む人達はそんな三人のやりとりにまた笑うのであった。
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