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キツネのお正月1


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1月1日、元旦。

ジャージの背を丸め白い息を吐く治と、ウィンドブレーカーの襟に顔を埋める侑が住宅街を歩いていた。
顔も背丈も体格も殆ど同じ。服装と髪の分け目、色だけが違う。

昼前には正月気分は消えていた侑と治は
リビングでゴロゴロしながらお笑い番組を見ていたのだが、どうせゴロゴロしているならと追加で出す年賀状を出してくるように母親に言われ、半ば強制的に外に放り出されたのだった。

すると、突然侑が竦めていた首を伸ばしてキョロキョロ辺りを見渡し始めた。

「なんやねん」

「もちのにおい」

「はァ?もちの?におい?………もちって、餅?餅の匂い?餅って匂いするか?」

試しにくんくんと嗅いでみるが、治にはわからなかった。それでもまだ辺りを見渡していた侑が突然「あっちや」と言って走り出し、治も仕方なくその後を走って追いかけた。




双子がたどり着いた小さな公園に餅はなかった。あったのは杵と臼、そして臼の中でホカホカと湯気を立てているもち米だった。

「まだやった……」

それを見て落ち込んでいる侑に「餅未満やな」と治。しかしこの匂いをあの距離から嗅いで分かる嗅覚は一体なんなのかと疑問にも思う。

「おお、侑に治。久しぶりやんか。練習はどうした練習は」

『年末年始は休みやねんでおじちゃん』

落ち込む侑の代わりに地区会長に答えたのは聞き覚えのある声だった。

「そうかそういえばはなこちゃんマネージャーやったなぁ」

双子が揃って振り返ると、ポニーテールにエプロン姿のはなこがいた。昨日も遊んだはなこは住まいも近所だし、公園で会うのも不思議ではなかった。その格好からしてこの餅つきの手伝いをしているのだろう。

「どや、せっかくやし餅つきしてくか?」

地区会長は未だにテンションが下がったままの侑にそう言ってやると、侑は「やる!」と目を輝かせた。単純やなと治とはなこは内心思う。

しかし杵を受け取った侑が周りに人がいない事をいいことにブンブン振り回している隣で治は「やらん」と首を横に振った。杵が止まる。

「なんでやねん!年に一度の縁起物やん、つくやろ!ついて食うやろ!」

『たしかに。治食べたないん?』

「ええか、侑、つく気まんまんやろ?そしたら、俺がひっくり返す係やろ?」

『あー』

なんとなく治の気持ちを察したはなこ。
侑はさっきショックを受けていたのが別人のような機嫌のいい顔で「当然やんか!」とまた杵を振る。

「指潰されるの見えるわ」

『たしかに侑はやりかねん』

「せやろ」

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