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彼女ノ虜
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「__________さっき…
どうしてなにもしなかったんですかぁ?」

さっきの場所から少し離れた場所に黒沼とはなこはいた。

『さっき?…べつになんとなくだけど』

「やだなーはなこさん。もしかして忘れちゃいました?俺は俺たちの護りをやってほしいって言いましたよね。連中は他にも二人いたのにはなこさんがなにもしなかったから、後から来た俺が契約通りあなたを護ったわけですけど……。
__________________どういうつもりですか」

狭い路地、互いに互いの背後にあるコンクリートの壁にもたれている。ほとんど落ちかかっている陽に一本の街灯が点灯する。その街灯は古く錆びついており真下のはなこの顔ですらぼんやりと照らすだけで、目の前の黒沼の顔はほとんど照らしていない。


【朧な光と底なしの沼のように】


『ダラーズのサイトから退会手続きをするだけでいいんだから、無闇に手を出す必要ないとおもって』

「…(変わった。俺が見つけた頃のはなこさんと全然違う。折原臨也がなにか吹き込んだのか?だとしたらこれはわざと?……いや、はなこさんはアイツの駒じゃない。ならなんで____________こんなにぬるくなった?)」

この一瞬で思考を巡らせる黒沼は、言うまでもなく頭脳派である。
血の繋がった兄すらも淡々と陥れ、自らの目的の為ならば利用されることも厭わない。その為に竜ヶ峰にボールペンで手の甲を突き刺されても、大嫌いな折原臨也が入れ込んでいる極道育ちの女を仲間に引き入れることもだ。

底無しの黒い沼。
そんな彼が気に入ったはなこの良さは今、失われかけていた。一言で言えばぬるい。ぬるま湯のように。

以前の彼女は見た目こそぬるま湯のように見えるが、底知れぬ沼の様になにかを持っていた。その底知れぬ沼に一度足を落とせば、数多のナイフが待っているような、そんな感じだ。

それなのに、それなのに。

「はなこさん、なんか変わりましたね」

黒沼は目の前にいる女へと歩み寄っていく。女というより少女に近い童顔な顔をした女は、たしかにいつもの余裕気な雰囲気より、普通の女子大生のような雰囲気をしていた。

『そう?』

つま先が当たる位のところまでくると、自分よりも少し背の低い彼女を目線で見下ろす。

「だってはなこさんは前の方が魅力的でしたもん。仇なすものには容赦なし!…って感じで。俺、はなこさんのそういうとこすごく好きだったんです…。憧れてもいた…なのに…」

今にも泣きそうで潤んだ瞳をはなこに向けるそれは演技か否か。黒沼は仕上げに下唇をギュっと噛んだ。

『…青葉くんのその演技、本当に凄いよね。私は好きだよ。…でもごめん。昨日、「その綺麗な手を汚すんじゃない」って心配して怒られたの』

「……。誰に言われたんですか」

見えない表情。

『君の知らない人。でも、家に関係ある人だよ』

「家は関与させないって言いましたよね」

すぐの切り返し。

『………青葉くん?』

「……」


__________________この人は、俺のだ
俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の。

何故かそれが脳を支配する。
折原臨也の他にも、彼女に影響を与える人間がいる。それがわかったからだろう。

歪んでいない貴方なんて、貴方じゃない。


「……すいません、なんでもないですよっ。
ちょっと考え事があって…でも解決したのでもう大丈夫。それよりお時間取らせてすいませんでした、」

_____________黒沼は、いつもの無邪気な笑顔をはなこに向ける。それは演技を超えていた。何故ならば彼にはもう新たな策が浮かび、それを成功させられる確信があるから。
その策の実行が楽しみで楽しみで仕方が無い。そんな感情のお陰で彼は心から笑っていた。



________俺が戻してあげますからね、と。


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