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植え付ける恐怖。
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愛は時に、憎悪に変わる。

目出井組組長に娘ができた。
それはそれは盛大に祝われ、祝いの料理や贈物は会社員の年収をあっという間に超える豪華なものばかり。

「名前はなんですか?」

「はなこだ。可愛いだろう」

「ええ。将来別嬪さんになるんでしょうなぁ」

「奥さんもお綺麗ですからね」

そして、この物語を歪ませる予定の人物、組長の妻もこの時は本心から幸せを感じ、はなこの幸せを祈った。

「そんなことないですよ。ねぇ、あなた。」

____________そして日常は壊れ始める。
組長は初めてできた娘に溺愛してしまったのだ。何処へ行き、何をするのにも自らはなこを抱いて連れ回していた。
気づけば娘が生まれるまで愛を注がれていた妻は、娘に溺愛する夫と家庭内別居。夫の目にはもう、自分は写っていない。
はなこと仕事だけを写していた。
一見どこにでもありそうな悲劇のストーリーは、火にガソリンを注ぐ勢いで加速する。

「じゃあ頼んだぞ」

「ええ、任せて」

「寂しいなぁはなこ。お父さんが帰ってくるまで母さんと良い子にしてるんだよ?」

「うん、はなこお父さん待ってる!」

「そうかそうかぁ」

偶々はなこを連れていけない程の大きな仕事ができた父親。しぶしぶ置いていくことにしたが、実は妻に預けるのははなこが生まれて初めてのことだった。物心がつく今日という日まで父親がずっと連れていたのだ。

玄関のドアが閉まったその直後だった。

「はなこ、お父さんのお仕事見にいこっか。泊まりだから今から準備して……ね?」

『え、ほんとに?いいのぉ?』

母の足に抱きつくはなこは、内緒だよと笑う母の顔を見ていない。

そして、母親ははなこを連れて家を出た。…小さめのキャリーバッグを転がしながら。

【空の中身】

『お母さんここどこ?お父さんは?
おせわかかりの九条さんがいないよ?あのね、いつもね、遊んでくれるんだよ九条さん』

行き着いた先は、廃墟。
すると母親ははなこの前にしゃがんで優しく微笑んだ。

「ねえ知ってるはなこ?はなこはお父さんをお母さんから盗ったんだよ。だから」

__________________サク。

「返してね」

はなこ腹に突き刺さる、料理用の包丁。

「これで美味しい料理、お父さんに作ってあげないと」

「奥さん、何されてるんですか」

「………っ!?」





____________その廃墟の隣のクラブを経営している粟楠会の幹部がたまたま通りかかったおかげで、はなこは一命をとりとめた。

この件は粟楠会とその同系列の組の上層部にだけ伝えられた。

人に刺された恐怖を幼い心に植え付けられたはなこは世間知らずのお嬢様から今の物騒なはなこへその日から大きく変わっていく。

全ては自分を守るため。
傷つくのが、痛いのが、怖いから。


____________ああでも、矛盾してる。


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