今年初の雪が本丸に降った。

電気ヒーターを入れてほんのり温かい部屋で、ボタンを締めるという動作に慣れないながらも真新しいシャツに袖を通す。

内番着すら和服の私には洋装は随分と窮屈に感じた。
というかスキニーがマジでちょっと、現世に馴染むため以外には着たくない。
好んで着てた人間時代はいずこ……。

「うっ……」

「ん?ああちょっと待て」

隣では同じく洋装に馴染みのない小夜が、かぶったセーターの出口を見失ってもがいてる。可愛い。
見守りたい気もするが時間も迫って来ているので手伝ってやると、スポンッと癖の強い頭が出てきた。

「パチパチします……」

「服の素材ももう少し考えるべきだったか」

まあ申し訳ないが、今回は我慢してくれ。

小夜にポンチョ状のダッフルコートを着せて、私も同系統色のチェスターコートを着る。

姿見の前で二人して最終チェックをし合い、グッと親指を立てた。

さすが光忠と宗三プレゼンツ。
刀剣男士の顔が良いことを差し引いてもよく似合っている。

私と小夜が兄弟設定なためか、お揃い要素が散りばめられているのはおそらく光忠の案だろう。
宗三でないことは確実だな、うん。

小夜の本体はポンチョの中に隠し持ち、私は流石に無理なので竹刀袋に入れて肩に担いだ。

「よし、じゃあ行くか」

「はい」

そう、私たちは紆余曲折あった現世護衛試験を辛くもめでたく突破し、そして今日。
主の帰省に同行して現世に行くのだ。


滞在期間は一週間。
ちょうど大晦日に帰ってくる予定で、お供を出来ない仲間達がひっきりなしに主の部屋を訪れている。

その様子を少し離れたところから見守っている私たちに気付いた彼らが、綺麗に二度見三度見してくるのが面白い。

小夜は視界に入る髪の毛が気になるのかちょいちょい触っている。猫が顔を擦っているみたいだ。

「ええいみなさまそれくらいで!もう時間ですので!」

実際に出発予定時間を過ぎている。
痺れを切らしたこんのすけにより追い出された刀剣男士の向こうから主が顔を出した。

「小夜ちゃん、鶴丸さん。おまたせし……キャーーーー!!??」

「お二人ともどうしたんですかその頭ー!!」

「似合ってるだろう」

「この方が、現世に馴染めると思って…」

そう言う私たちの髪は、綺麗な黒に染められていた。




現世用の衣服を買うにあたり、ぜひコーディネートを!と名乗りを上げた光忠と宗三と共に万屋に買い物に行った時のことだ。

ファッション雑貨を多数取り揃えていたその店の片隅に、それはあった。

『手入れで戻る!刀剣男士専用カラーリング剤』

可愛らしい書体で書かれたPOPには、桃色の髪をした乱藤四郎の写真が貼り付けられている。

ふとこんのすけとの会話を思い出す。

「人間を装っていただきます」
「容姿ですでに無理がある」

あの時私は刀剣男士の色彩では現世に馴染めないと思った。
個性で押し通せるというこんのすけの主張と、試験対策でそれどころじゃ無かったのもあってすっぽり脳から抜け落ちていたが、目立たないに越したことはないだろう。

一つ手に取ってみる。

うーむ。名前の通り鶴っぽさにこだわりはあるものの、生涯そのままというわけでもあるまいし。

「染めるんですか?」

ひょこっと宗三に着せ替え人形よろしくされていたはずの小夜が手元を覗き込んできた。
向こうでは宗三と光忠があーでもないこーでもないと唸っている。

「僕も染めようかな……その方が目立たないよね」

「そりゃそうだが。無理しなくていいんだぜ?」

兄弟設定で行く以上、顔はどうしようもないから髪色くらいは似せるべきだが、必須じゃない。
私の白髪よりは目立たないだろうし。なにより宗三が拒否しそうだ。

「うん、でもちょっと興味あるかも」

「お小夜!?あなたはそのままでいいんですよ?」

ほら来た。
うちの宗三は兄弟愛強めの個体らしく、左文字らしい青をとくに好んでいたから。

しかし小夜はもっと強かだった。

宗三兄さま、と名前を呼ぶと小首を傾げ、

「黒髪の僕は可愛くないと思う?」

「可愛いに決まってるじゃないですか!!」

秒で決着がついた。それでいいのか傾国。
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