思えば主は現世に帰りたいと口にしたことが無かった。
家族関係は良好のようだから、それは試験突破の見込みが薄い私たちを慮ってのことだろう。
情けないかぎりだ。
「だからこそ、何がなんでも初年で合格してみせようと思う」
そう言ったのは小夜左文字だった。
珍しく前に出て発言したと思えばそんな決意表明で、散々な結果通知に折れかけていた心が再起する。
「主のお兄さんが結婚するらしいんだ。もともと婚約はしていたようだけど、主が審神者になって式に参列できなくなったせいで延期してたみたいで。でもこれ以上は延ばせないって」
だから今回の帰省チャンスを逃すわけにはいかないのだと。
そう知らされた事情を知って、再び灯ったやる気の灯火はさらに燃え上がった。
「仮試験は数打てば当たる戦法だったが、それではダメだ。全員、結果通知を見せ合おう。互いに補い合える組みを作るんだ。その中でも突破できる確率の高いペアを厳選する」
「それが良いだろうな。選ばれた候補は遠征出陣その他の業務を免除。試験対策にだけ全力で打ち込んでくれ」
「選ばれなかった奴はその分の業務を肩代わり、ってわけだな」
「先達たちにも協力を仰ごう」
「担当さんにも協力してもらお!」
刀剣男士の心が今、一つに。
こんのすけは本丸発起の頃を思い出し、思わず涙した。
「…………ところで、打刀以上で一番の好成績は実は大倶利伽羅だったんだが、脇差以下は誰だ?」
寄せ集められた評価表を見て山姥切が問えば、脇差以下は誰もが苦笑いでその刀剣を見る。
当の本刃はひらりと手を上げそして、にっかり笑った。
「僕だよ」
「「「嘘ぉおおおおお!!!!」」」
「失礼じゃない?」
青江!?青江なの!?この子は外に出して大丈夫な子なの!!?
「大丈夫か?この間あいつ平野にさあ、身を委ねてくれ……とか言いながら髪洗ってやって一期に絞められてたぜ?」
そういうとこだぞ青江ええええええ!!!!
「頼んだぞ鶴丸」
待って。
「あいつの手綱を握れるのはあんただけだ」
待って!?
私も青江も対人評価はAである。アンバランスこの上ない。
厳正なる審議の結果。青江のペアは山姥切になった。
「おい待て」
「んふふ、手取り足取り教えてあげるね。対人試験のことだよ?」
「おい鶴丸」
「よろしくな、小夜」
「よろしくお願いします」
「鶴丸!!!!」
さあ、試験突破に向けて勉強会のはじまりだ!
ということがあったのが、数ヶ月前。