ー 初鍛刀 小夜左文字 ー
呼ばれてひょこっと顔を出した小夜はおずおずと近寄ると、じっとまっすぐに山姥切を見つめた。
山姥切はたじろいでまた布を引き下げようとするのでそれより前にしゃがんで声をかけた。
一歩進んで一歩下がられちゃたまらんのだ。
「よっ!小夜左文字だったな。小夜って呼んでいいか?」
「お好きにどうぞ…」
本当はお小夜って呼んでみたかったけど歌仙でも左文字兄弟でもないからね!アウトなわけじゃないと思うけど、もう少し仲良くなったら呼んでみたい
「独占してしまってすまんな。山姥切に用事だったか?」
「いえ、話し声が聞こえて…それで、」
チラチラと山姥切を見るので何か言いたいことがあるんだろう。
主のところに着くまでにやたらイベントが発生しているが話を聞いた上で、ということならマイナスにはなるまい。
「山姥切、しゃがんでやれ」
見上げる小夜の首がきついだろう。と説明すると慌ててしゃがんだ。
小さい子と接する機会がないとそういうのよく分からないよね。大丈夫、分かってるよ〜
小夜は三白眼で猫目だし笑ってるわけじゃないから見上げられると睨んでるように感じてしまうというのもある。
「主は、山姥切さんを信用しています」
おっといきなりだな。当人はといえば目を見開いて泳がせている。
「主が、そう言っていました。
人付き合いが苦手な自分にも、無理に近寄って来ず、怖がらせないようにしてくれていると。それがとても有り難い。
れあ、と呼ばれる鶴丸国永を呼べたのも、あなたのおかげだと。
支えてくれる貴方に報いたいと」
ひらり、桃色の花弁が一つ、布まんじゅうの上に舞った。
布の隙間から赤く染まった頬がのぞいている。ついつい撫でてしまったが拒絶はされなかった。
そうだ。嫌われていると思っていても、彼は審神者を心身ともに支え守る初期刀の役目から逃げることはしなかった。
執務室で彼が持っていたのは辞書ほどの厚さのある審神者業の手引書だったのだから。
「良かったな。小夜も、ありがとう」
「僕は何も、」
「主の気持ちを伝えてくれたろう?さすが、主の懐刀だ」
小夜は話好きな方じゃない。にも関わらず、審神者の心境を把握しており、二人がすれ違わないようにと伝えてくれたのだ。立派な行いだ。
きっと主に直接聞くよりも素直な気持ちが聞けただろう。
そしてそれを把握している小夜も、主にとって特別な刀に違いない。
そう言って青色の小さな頭を撫でた。