しぶる山姥切を先頭に歩いていると途中でかごを抱えた大倶利伽羅に出会った。立派な大根とジャガイモがゴロゴロ入っている。
「やあ伽羅坊。畑仕事かい?」
「馴れ合うつもりはない」
つれないなぁ。大倶利伽羅の慣れつもは山姥切の写し発言並みの定型文だと思ってるから気にしないけど。
そのまま大倶利伽羅とも並んで歩いているとチッと舌打ちされた。
「なぜ付いてくる」
「伽羅坊の行き先は厨だろう?俺達もだからな」
答えると口をへの字にしたけど何も言わずに歩き出す。
「そうだ。山姥切が主に嫌われてるらしいんだが本当かい?」
「は?」
ギョッと見てくる山姥切に対し、大倶利伽羅は何を言われてるんだが分からんって反応だな。
もしやと思っていたが、アタリか。ここで大倶利伽羅に会えたのは僥倖だった。
サクッと事情を説明すると、眉間にシワが刻まれていく。
「何か知っているなら教えてくれ。初期刀殿が誤解しているようなんだ」
チラリと横目で顔を隠す山姥切をみた大倶利伽羅は眉間にシワを寄せたまま口を開いた。
「直接聞いたわけじゃない。が、あいつが怖いのは血だろう」
ふむ。
ー 打刀 大倶利伽羅 ー
主である審神者は血が怖い。
大倶利伽羅がそれに気付いたのは出陣帰りでも何でもない日常の中でだ。
初めこそ山姥切と同じように自分、もしくは刀剣男士が怖いのかと思っていた。
が、ある時厨に立つ主が包丁で指を切ってしまった。切れ味のいい包丁で、スパッといったらしく血が留めなく流れており、
たまたま目撃してしまった大倶利伽羅が布を差し出した時の主は傷を凝視したまま動かず、顔色は真っ青を通り越して土気色で動揺のあまりこんのすけを呼びつけてしまった。
ちなみにその後、我に返った主はこんのすけに指示されるままに的確な処置を施したので傷は残らないらしい。
「成る程。だから君、俺を担いでまで手入れ部屋に運んだのか」
ツンデレはツンデレでも対象は主だったか。
いや、残念に思ってなんかないぞ?
しかしあの時、強張ってたとは思うがそんなに顔色悪かったか?
「なら、本当に、俺が嫌われていたわけではないのか……?」
「デカイ男が苦手ってのはあると思うが、君個刃が嫌われているわけじゃないと分かって良かったじゃないか」
そう言うと山姥切はホッと肩の力を抜いて少しだけ顔を上げた。
誤解は解けたしもういいんじゃないかと言う山姥切を「まあまあどうせならもう少し主との距離を縮めたいだろう?」とそそのかしながら並んで歩く。
刀である以上は主に必要とされたいし、家臣としては頼られたい。これは本能に近い。
主も主で今日すぐにとは言わないがせめて初期刀との距離は縮めたい。ので頑張ってもらおう。
私?私は身長も高いしおいおい慣れて貰えばいいや
大倶利伽羅や山姥切に話を振ってちょっかいかけてとしながら歩いていると視線を感じた。
振り向いても誰もいない。が、なるほどこれが"気配"ってやつか。人間の時にはまるでわからなかった感覚だ。刀剣男士ってすごい。
私の偵察はほぼ初期値でお世辞にも高いとは言えないはずだけど、おそらく相手が本気で隠れているわけではないと言うのもあるだろう。
立ち止まった私に気付いた二人も立ち止まる。
そこで一緒に立ち止まってくれるんだから大倶利伽羅はなんだかんだやさしいよね
口に出したら逃げそうだから言わないけど
「小夜?」
お、さすが初期刀!練度も一番上だしそもそも初期偵察が高い打刀だったはず。さすがに数値までは覚えてないけど。
とにかく気配の正体は小夜左文字のようだ。