担当の仕事というのは相当ストレスの溜まるものらしい。
いや社会人で仕事してる以上はどんなものにだってそれはあるのだけれど。

彼女の場合は上司に恵まれなかった。
その弊害で新人や問題審神者ばかり押しつけられてるそうだ。

雑談の流れでの話題だったのだが、
就任2年目にして主を含め10人の審神者を担当していると聞いた宗三はキレ散らかした。

「10人って、貴方それはおかし過ぎるでしょう!」

「普通は何人なんだい?」

「10人担当というのはよくある話です。審神者は幾らいても足りないですし、審神者より担当の数は少ないですから。ですが野菊はまだ担当官として2年目のはずです。そんなやっと科斗に足が生えてきたような者に任せる人数ではありません!」

「はい……正直なところ、この通り過労と診断されるほどには業務に追われていますし睡眠も取れていません。昨日一日じゅうぶんに寝てこそ分かりますが、頭痛と苛立ちが酷く精神的にも追い詰められていたと思います。稲葉様に限らず担当している審神者様方にも随分な態度を取ってしまいました……。鶴丸様に指摘された通りです。改めて、申し訳ございませんでした」

女は化粧で化けるもの。
クマを隠していた濃い化粧と眉間のシワが無くなっただけで印象は柔らかいものになっている上、言葉を交わすうちに主も担当がただの怖い人ではないと分かってきたのだろう。

どこか同情的で寄り添うそうに、担当に頭を上げさせて大丈夫だと励ましている。

「私も自分が人より劣っていることは知ってます。嫌だなって思ってたことも、図星だからだって本当は分かってたんです……。私こそ、嫌な態度とったりお手数かけてすみません」

「いえ私が業務についてもしっかりサポートすべきでした。若輩ゆえにまだ後輩を育てたことがなく、どのようなことが分かっていないかが分かっていませんでした」

でも、いいえ、けど、ですから。

だんだんと謝罪合戦に発展していく二人。
宗三と私は顔を見合わせ苦笑した。

「まあ優秀ゆえに平凡や劣等の気持ちを配慮する能力にかけた子ではありますが、見た通り悪い子ではないんですよ」

「分かってる。これからは上手く付き合えるだろうさ。ところで君はずいぶん担当殿に入れ込むな?」

「うちは戦争初期から稼働してる本丸ですから、担当役人の研修なんかも引き受けてるんですよ。その時に来たのがこの子なんです」

随分と先輩だった。
見聞きするかぎりで知る宗三っぽくないなと思ったらそういう事情だったのか。
それなら短期間の前担当というのも納得いく。

「審神者業界の右も左も知らないひよっこなりに人一倍頑張ってましたからね。新人の中には付喪神を妖怪として侮る人間もいる中で、神と敬い真摯に尽くそうとする姿勢は皆が評価していました」

それがあんな上司を持ったばかりに……!

怒りが再熱しそうな宗三に私は黙ってそっと柿のゼリーを献上した。静まりたまえ。持って帰って小夜とでもお食べ。

「そういや君の主はなんで入院を……って聞いてよかったかい?」

「心配無用です。ただ夜中に鶴丸と獄鬼辛ペヤング一気食いチャレンジして痔を悪化させただけですから」

オゥ…………それは。

「馬鹿なんですよ」

私が飲み込んだ言葉を鼻で笑い飛ばしながら言う宗三の辞書に遠慮は無い。

戦争初期の審神者といえばもっとこう……猛者!って感じをイメージしてたのに。
そして鶴丸おまえェ……。

「そこのお嬢さんは当たりを引きましたね」

「当たり、ですか?」

「落とし穴を掘らないタイプの鶴丸でしょう」

掘る掘らないで分けられる鶴丸やべぇ。
圧倒的風評被害。一部のやらかす鶴丸が目立つだけなのでは無かったのか。

「ビックリ爺の名がまかり通る今となってはわりとレアですよ。僕らは主のイメージに影響を受けますからね」

なるほど。
確かに平安爺よりビックリ爺のほうが同じ空間で生活するには親しみやすいだろう。
顕現する時にそう願えばそうなる可能性は高い。審神者と刀剣男士の関係はそういうものだ。

ふんふんと話を聞いていた主が私を見上げた。ふわりと笑う。

「はい。頼りになる、自慢の刀です」

ンン゛ッッ!!

堪えきれずボンっと桜が爆散した。

主のふいうち!
刀剣男士ゴーストタイプには効果ばつぐんだ!

驚きだじぇ……。
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