吐いた息が白い。
窓は結露で曇り、誰かが落書きしたネコっぽい絵が垂れてきた水滴で崩れ不気味になってしまっている。ちょっとしたホラーなので潔くキッチンペーパーで拭き取ると、曇りの取れた窓の外に小さな雪だるまが量産されていた。
「さっむいなぁ」
二の腕をさする。
本丸は少し早い冬を迎えていた。
ピーッと鳴き出したやかんをコンロから下ろし熱めの茶をいれて、茶請けのケーキもお盆に乗せたら厨を出て客室へ向かう。
「ーーーはい、確かに受け取りました。進軍のペースもいいですし、新しい刀剣男士様も増えたようで戦力増強も順調ですね。こんのすけから大体の報告は受けてますが何かありますか?」
「大丈夫です。あの、お時間あればお茶して行きませんか?」
ナイスタイミングだ。
初めの頃が嘘のように良好な関係を築けている担当と主の会話に忍び笑いして声をかけた。
「鶴丸国永だ。入るぜ」
スッと襖を開けると控えていた小夜がお盆を受け取り、チラリとお茶請けを確認して微かに頬を緩ませた。うちの小夜は甘党である。
「担当殿も良ければ食べてってくれ。初めて作ったんだがなかなか好評だったんだ」
「鶴丸様が作ったんですか!?いただきます」
目を輝かせてフォークを手にした途端に鳴り響く着信音。
着信元を確認した担当はスンッと表情を落とした。アッ察し。
相変わらず彼女の上司はブラックだ。待遇も改善されてはいないようだが、あの入院した日の愚痴と反省をきっかけに折れかけていた心が再起したらしく。
今ではセクハラパワハラ何クソ精神で審神者サポートに尽力し、上司を置き去りに担当している本丸を始め同僚や他部署からの評価をぐんぐん上げているそうだ。逞しい。
いずれ出世させざるを得ない状況まで持っていってやる。そして下克上だ!と日々野心に燃えている。
2コール3コールと鳴り続けるそれが4コールに突入するより先にプツッと着信を切った。
「いただきます!」
「えっ良かったんですか?」
「いいんですよ。緊急なら個人端末ではなく部署の方からかかって来るはずなので、どうせ大した用ではありません。そんな上司からの電話と鶴丸様お手製のケーキ。どちらを優先するかなど火を見るより明らか」
「君、俺への信仰度上がってないか?」
「鶴丸様は敬愛する神様であり推しですので」
「推し……」
随分と心の武装を解除してくれるようになったんだが、同時になぜか私をリスペクトし出した。
推しとまで来れば財布を取り出す日も近いな。課金させてとか口座教えてとか言い出したら末期だ、きっと寝不足だ、布団に放り込まねば(使命感)。
美味しそうにケーキを頬張る彼女らを横に一人決意を固めた。
その三分後に実行した。