「こんなのおかしいわ!!」
モニタールームで女は叫んだ。
目の前で、練度が上のはずの自分の刀剣たちが蹂躙されている。
自慢の小狐丸は大した性能ではないと侮った鶴丸に開戦早々とんでもない方法で首を跳ねられ、初期刀は兄弟刀で優しいはずの堀川に急所を一突きにされた。
おかしい、可笑しい!
私のところの鶴丸はいつもくだらないイタズラばかりしてるだけのビックリ爺なのに。
堀川は1番の新人である初期刀にいつもなにくれと世話を焼いているいいお兄さんって感じなのに。
それに山姥切国広。同じ初期刀。
「なんで同じ初期刀なのにあんなに向こうが強いのよ!」
モニターの向こうでは前任の初太刀燭台切光忠に食らいついていく山姥切と乱藤四郎。
乱が懐に飛び込む。山姥切と鍔迫り合いながらも読んでいた燭台切がその首根っこを引っ掴んだけれど、すかさず山姥切がその腕を切り飛ばさんと刃を振るった。
手首が飛ぶ。
和泉守が大和守と堀川の連発する二刀開眼に押されていく。
キンっと堀川が和泉守の刀を上に弾き上げた時、大和守が動いた。
羽織りを脱ぎ捨て、和泉守に投げつけたのだ。
視界を塞がれて慌てて退かそうとするが、
「遅い!」
大和守が羽織りごと和泉守を叩っ斬った!
堀川がダメ押しとばかりに追撃し、パキンっとあまりに呆気ない音を立てて戦線崩壊した。
「あんた!刀剣男士にあんな戦い方をさせて、ブラック審神者ね!?」
「!?」
「可笑しいじゃない!こっちの方が強いに決まってるのに!鶴丸が、安定が、堀川が、あんな酷い戦い方を!」
「なんもおかしくねーだろ」
口を挟んだのは護衛の愛染だ。小さな体で主を背に庇う。
「酷い戦い方ってなんだよ。鶴丸さんは確かにビックリさせてくるけどさ、それがうちの鶴丸国永だし」
大和守の戦い方は鶴丸の影響を強く受けているし、堀川は初期刀の務めを果たそうと日々頑張ってる兄弟を毎日見てるんだからそりゃ他所の兄弟とはいえ説教の一つもしたくなるだろう。それがあの形だったとしても。
これは戦だ。酷いもなにもない。
「お前のとこの刀が弱いのはお前が信じてないからだろ?信頼関係がないからだろ?」
「なんですって?」
「じゃあなんでお前、護衛連れてないわけ」
ずっと気になってはいたことだ。
演練とはいえ本丸の外で主を一人にする時間がある事を、刀剣男士がよしとするはずがない。
おそらく練度が開きすぎている山姥切を育てるための演練だったんだろう。が、
「護衛について来てくれるような刀がいなかったんじゃねーの?」
「っっ!!!!!」
図星だった。完膚なきまでその通り。
さらに正確にいうならば、来てくれなかったというより頼めるような関係を築けていないのだ。
「やれ、薬研!」
パンパンッと音がして、平野藤四郎が狙撃された。
戦線崩壊だ。
私は優秀、私が一番優秀なのだと自負があった。
引継ぎの話がでた時、拒否権はあった。
新品の本丸が貰えないのは少し残念ではあったけど、それ以上にレア太刀が一通り揃っていて練度もあったし、初期刀は数振りから好きなのを選んで良かったから。
それに、引継ぎを打診されるということ自体が優秀であることの証だ。だから引き受けた。
「乱、大和守、堀川!」
戦線崩壊。
「私はずっと優秀だわ!前任が折った山姥切だって顕現してあげたじゃない!」
お前、それは……アホかと。聞いていた者全てが思った。
いつ折れたのか知らないが、それまで共に戦った仲間を、折れたと知った上である日やってきた引継ぎ審神者がぽいと気軽に顕現して良いわけがない。
言い草からするに、話し合いもなかったんだろう。
前任は刀を折ったダメな審神者、自分は優秀で折れた山姥切を顕現する優しい主。
そんな自分に酔った小娘に忠誠を誓えるものか。
引き継いだ刀剣たち、とくにあの小狐丸の態度が如実に語っているだろう。
「鶴丸の旦那!」
鶴丸国永、戦線崩壊。
「チッ薬研、来い!」
忠誠を誓えないのに、主としてあてがわれたからには主と呼ばねばならなくて、山姥切に非は無いのだからと思っても無意識に折れた彼と重ねることはあっただろう。
山姥切国広は霊剣山姥切の写し。
自分を通して他の何かを見られることに非常に敏感な刀だ。
「地獄かよ…」
愛染の口から漏れてしまったそれは全員の代弁だった。
「あんたは私より劣ってるじゃない!」
詰め寄る審神者。愛染が刀に手をかけた。
「旦那、あとは頼んだぜ?」
「一騎打ちだ」
薬研藤四郎、戦線崩壊。
「くそっ俺を写しと侮ったこと、後悔させてやる」
山姥切が強く踏み込んだ。
稲葉はぐっと顔を上げた。
「あ、貴方にブラックとか言われたくない。私は、もう落ちこぼれじゃない」
「死をもってな!!」
「私の刀たちは貴方なんかに負けない!」
骨喰藤四郎、戦線崩壊。
戦闘終了<勝利C>
「ぁ…勝った、見ろ勝ったぜ主!!」
「……勝った…?あ、あ"い"ぜんぐん"、みんな勝ったぁ!!」
わあわあ泣きながら抱擁する審神者と笑う愛染を、周りの温かな拍手が包んだ。