戻る道中、薬研が既に待機していた。どうやらもう出番が回ってきていた様子。

「ごめんね!もしかして遅刻?」

「いや、まだ少し余裕はあるぜ。早めに待機してただけさ」

そりゃ良かった。
主の元に戻るよりも転送部屋に向かいながら急遽作戦会議することにする。

相手の刀装は薬研が確認しておいてくれた。

3スロがいないのは助かるが、おそらくそれだけでは覆せない練度差があるだろうから策は何重にも練らなければ。


実は私は盾兵は持ってたんだけど、本命である審神者Bとの演練が待ち構えているので手札温存の意味もあり展開させなかった。

私がいなくても勝てるだろうと見込んでのことだ。

意見が満場一致だったし隊長と初期刀からもGOサインが出たので。

主は好きにしていいと言いながら半泣きだったけど。

もちろん、他の審神者たちと当たる場合はそんな事はしない。それは流石に失礼だ。けど、数戦挟んで審神者Bまで出番はなかったので。

私はどっちかっていうとBの方を潰したかったし。

確実に勝つために手の内はなるべく見せたくないからな。これで私の刀装は盾兵じゃないと思ってくれるといいんだが。

ここもゲームと違って相手がどんな刀装を持ってるのか分からないのが肝だ。

「最高練度は燭台切だな。向こうの山姥切は俺っちと同じくらいじゃないのか」

「引継ぎと言ってたな…練度上げに付き合うにしても練度差があり過ぎれば難しいだろう」

あの本丸の戦績は引継ぎメンバーが上げているっぽい。初期刀でも1番の新人、練度も低い。

「あの俺は、そんな本丸でやっていけてるのか」

「いけてないからあの距離感なんだろ」

「そこを突くぞ」

「うん、まずは兄弟を折る」

戦線崩壊と言ってやりな。うちの山姥切がビクついてるぜ。実は堀川くんかなりお怒りだな?

「あ、あと兼さん…和泉守兼定は僕がやりたいな。どんな事情なのかは知らないけど、あんな兼さんはかっこよくない!」

かなりお怒りだな!?

「なら僕、堀川と組んでいいかな。新撰組で叩き直してあげよう」

なんだろう。敵方に合掌したくなるこのコンビ

太刀は私と山姥切で対応する

「薬研はひたすら距離を取りながら狙撃。乱は山姥切と組むといい。できるな?」

「そりゃ適任だとは思うが、鶴丸の旦那は一人で相手取ることになるぜ?」

その言葉に私はニヤリと悪い笑みを浮かべた。

「俺か?俺はな______ 」

ちょっとした秘策があるから、小狐丸は任せてもらおう。


そして開戦の合図が鳴る。



刀剣男士はいい意味でも悪い意味でも刀である。
たとえ人間に鱗ができたとしても、水中で生きようとは思わないだろう。

同じことだ。刀剣男士はまずその本体で戦うことを考える。

そして物語から生まれた小狐丸は本物の戦を見、聞き、経験したことがない。


すなわち、

「肉弾戦舐めんな!」

ゴキッッッ!!!

「グッァ!?」

人間ならば洒落にならない音を立てて骨が砕けた。

「ハッ 驚いたか?刀の付喪神がこんな戦い方すると思わなかったろ」

図体のデカイ小狐丸を相手にするのに刀が邪魔だった。だから最初に上空に向かって思いっきりぶん投げた。

ギョッとしている隙をついて足を払い組み伏せ両腕をへし折る。切りつけられはしたがそこは盾兵の出番だ。私はなんと盾兵2つ装備なのだよフハハハハ!!

そして、

「練度が下だからって舐めてるからだぜ?」

重力に従って落ちてきた刀をキャッチして、その勢いを威力に上乗せして首を跳ねる。


戦闘開始、わずか1分の出来事である。



「鶴丸後ろだ!」

「おっと、こりゃ驚いた」

声をかけてもらわなきゃ気付けなかった。いつの間にか迫っていた骨喰の刀を受け止める。

「らしくない戦い方をする」

「らしいってなんだい。俺はいつだって俺らしいさ」

「鶴丸国永のそんな戦い方は見たことがない」

「そりゃそっちの俺は随分と勉強不足だなっ」

向こうの山姥切はすでに破壊済み、和泉守は新撰組が抑えている。二刀開眼はないのは救いだが、こいつもなかなかに強い。太刀と鍔迫り合いできるってなんなんだ!?

実は最高練度こいつだろ!

とにかくこの硬直状態から抜け出したい、と思った時平野がいないことに気付いた。

最初は和泉守と一緒にいた、いないってことは、

「潜り込んでしまえば、僕の間合いです!」

ははっうちの骨喰が軍師で良かった。
エグいシュミレーションにさんざん付き合わされてて良かった。
このシチュエーションは知っている。

私はふっと力を抜いた。

「「っ!?」」

刀が骨喰に押されるがままに弾け、その力のままに握ってる手で位置だけを調整すると、

ものの見事に懐に飛び込もうとしていた平野を峰打が襲った。

平野に当たって勢いの止まった刀を今度は骨喰に振るう。

ああ、骨喰に見せてやりたかったな。
お前の立てた戦略は上手くいったぞ、と。

パキッと確かな手応えを感じた。
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