「勝ってたぜ大将!」
「あるじさーん!」
「戻ったよ主」
「ほらほら兄弟も!」
「な、泣いて…!?」

拍手が包む主の元へ帰ってきた刀剣を見てまた涙が溢れる主を見ておろおろする初期刀。

微笑ましい光景にあんな頃もあったなぁと温かい視線を送る大人組と貰い泣きする新人。

そんな空間に居辛くなったBが鼻息荒く出口に向かうのを見送った。

帰るつもりだろう、Aのように。
見とがめたベテラン男性の刀剣が一歩踏み出すのを手で制した。

大丈夫、それは許されない。

Bの前にその刀剣たちが立ち塞がった。
自販機より高い壁が三つ並ぶと迫力すごいな。

「ちょっとそこ退きなさい!」

「退かねーよ」
「いい加減になさい」
「君はもう僕たちの主になったんだ。相応しくあってもらうよ」

戦闘前は後ろで遠巻きにするだけだった彼らの変化に目を白黒させる審神者たち。

何かしたのか?と小声で問いかけてくる山姥切に、ニッと笑って口元に人差し指を当てた。

もちろんした、けど内緒。の意味を込めて。

ってなぜそんな恐ろしいものを見る目で見るんだ。大したことしてないぞ。
戦線崩壊で転送されてから山姥切が勝利を収めるまでにちょっとオハナシしただけだ。
あまり吹聴することじゃないから内緒だけども。

ポンっと液晶が次の対戦を促す。
ここからは連戦だ。

「うし、行くぜ!」

「「おう!」」








結果から言おう。

3勝2敗。大人組にはものの見事にやられてしまった。

やはり強い。

単純な練度差、経験値、顕現年数、そして主との信頼関係。

はっきり言って私たちがBに勝てたのも作戦を練ったってのもあるが一番は信頼関係が向こうになかったからだ。主のために勝とうとする気概がなかったからだ。


今回の演練は良い経験を積めた。
それに良い審神者に当たったようだ。

皮肉なことに騒動の中で主が覚悟を示したことでベテランから目をかけてもらえることになった。

本人は未だ萎縮してしまうしそれを分かってて近づく人ではなかったようで、連絡先交換は山姥切が代わりにしていた。

私も交流に甘えて私たちを負かした2組のそれぞれ石切丸、御手杵と話をさせて貰う。

戦った中で一番気になった二振りだった。




***


大太刀の一撃は重く強い。

機動についてよくネタにされる石切丸なら尚更に。

だからその一撃をなんとか受け止めた鶴丸が吹っ飛ばされるのは当然の結果だった、のに。

彼は右手を刀から離して石切丸の袖を掴み、それを防いだだけに終わらず、引き寄せて左手一本で突きを繰り出して来た。

せめて一矢報いる…!

そんな気迫に満ちた獣のような目で。






スッと自然と目をひくような、不思議な魅力を持った刀だと思った。

見た目が違う、いわゆる亜種と呼ばれるようなものではない。
練度が特別高いわけでもなさそうで。

その真白な容姿も合わさって
雪が降った日の、静かで、不思議な暖かさを思わせる刀だと思った。

短刀の髪を整えてやっている姿を見た。

はしゃぐ彼らを安心したように見つめる金色の瞳に慈愛が満ちていて、ああ、大切に思っているんだなと一目で分かる。

そんな彼の部隊と戦うことになったのは偶然だけれど、部屋に入ってきた彼の目にはもうあの暖かさはカケラもなく、あれはおそらく身内にだけ見せる表情で、それが少し残念で。


気迫にかけるとはいえ練度が上の刀に勝ったのは見事の一言だ。とくにあの小狐丸を破壊した動作は思わず主と共におお!と感嘆の声を漏らすほど。

「主」

「どうした石切丸?」

「あの鶴丸さんの本丸とは縁を結んでおいた方がいい」

絶対に強くなるよ。

そう言うと主もうんうんと頷く。
主は彼の審神者に怯えられてしまったが、己の刀剣のために立ち向かう姿に好感を抱いていたから、出来る手助けはしてやりたいと思っていたことだろう。そう言う人だ。


勝利を手に帰還した彼らと審神者を他所に相手の審神者が帰ろうとしたのをさすがに見とがめた。

石切丸の本丸は報酬目当てだからまだいいが、練度上げに来ている部隊がある中で2部隊分も不戦勝なんて、と。

しかしその必要は無かった。一歩踏み出した石切丸を手で制したあの鶴丸が何かしたんだろう。

問題を見極め行動、対処してしまう姿は長きを生きた平安刀らしく、予想外の戦法で驚かせてくる所は審神者界でびっくり爺の名を欲しいままにする彼らしい。


彼と対峙してみたい、と思った。
戦より神事が得意だと言う石切丸が。

あの獰猛な目で首を狙われた時、柄にもなく高揚した。

なのに練度差というものは残酷にもその実力の前に立ちはだかる。

鶴丸の練度では石切丸の刀装を突破できなかった。

あまりに呆気なく決着がついてしまった。


けれどどうやら大太刀に興味を持ってくれたようで
あれこれと質問してくる様は微笑ましい。

きっと長い付き合いになるだろう。
そんな予感がした。
[ 25/113 ]

[前へ] [次へ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -