とつぜんだが、お気付きだろうか…?
私が鶴丸国永に成ってからいろいろ忙しくて誰かを驚かせる暇がなかった。
つまり鶴丸国永らしいことをしてない!
できてない!
人間の生活は私にとっては当たり前のことでも鶴丸にとっては初めてなのだから新鮮なことだ。
だからか、妙にする事全てが楽しくてキラキラして見える。
主のために勉強するのもやりがいがあって苦だと感じたことは一瞬もなかった。
きっと人間の私なら彼女のためにここまで頑張ろうとは思わなかったろう。
そんなこんなで、私自身が退屈だと感じたことはないんだけども。
つらつら考えながら歩いていると畑に着いた。
今日の畑当番は…五虎退と大倶利伽羅だったか?
でももう終わってる時間だからか見当るところにいない。
おっ、立派なトマト。この服だとつまみ食いがバレるからやめておこう。
しかし季節に関係なく育つ本丸の畑はすごいなぁ。
______、
「ん?」
物置の方で声がした。
行ってみると五虎退がおろおろと上を見上げている。
湧き上がるイタズラ心
「わっ!」
「ひゃあああ!?あっ鶴丸さん!」
わっははは驚いたか!いいリアクションを貰った!
涙目の五虎退の視線を辿ると高い段に普段使わない分の籠が積まれている。その隙間からチロリと見えたのは、五虎退の虎?
「虎くんが降りられなくなっちゃってぇ……」
「ああ、こりゃ随分登ったな」
私の身長でもキツイかもしれん。
試しに手を伸ばしてみたが、棚には届いても虎には届かない。
「よし、ちょっと大人しくな五虎退。これでどうだい?」
五虎退の胴を持ってひょいっと肩車だ。
これ、人間の時に5歳の弟にやって危うく首が死ぬところだったから気をつけよう。
「わぁ高いです!届きます、虎さん!」
高いところ怖がられたらどうしようと思ったがそこは刀剣男士か、怖がるどころかやや楽しそうだ。
無事に虎さんを回収した五虎退をそのまま乗っけて歩く。
実は今のメンバーであまり話したことがないのはあとは五虎退だけなのだ。
大倶利伽羅?やつは料理を手伝ってればそこそこ話すぞ。馴れ合うつもりはない(料理中は除く)。
当番は終わってるようなので埃まみれになった虎を洗いにいくことになった。
「す、すみません」
「ははは!いや何いい驚きだったぜ」
虎は水遊びの好きな珍しいネコ科だ。
五虎退の虎も例に漏れなかったようで、
跳ねる水、溢れる水、ひっくり返る桶。
遊びまわる虎たちに翻弄された結果、見事に私たちまでずぶ濡れになり風呂に入ることになった。
サクッと出てドライヤーをかけさせてもらう。
「おおっ!」
青目で首にリボンの子虎を撫でてみれば意外としっかりした触り心地。猫をイメージしてたけど骨格はそれよりしっかりしてるし毛質もやや硬い。さすが小さくても虎ってところか。
でも喉を撫でられてゴロゴロ言う姿はやはり猫。
はーーーーーかわいいが過ぎるな?
「…鶴丸さんは、虎くんお嫌じゃないですか?」
「可愛らしいと思うぜ?誰か苦手な刀でもいたか?」
虎嫌い……となると日本号だけどまだ実践していないし。大倶利伽羅は誰も見ていないところで撫でてるの知ってるし。
山姥切はよく布強奪されかけてるけど。
「その、あるじさまが……」
「主?あのいつもこんのすけをころころ撫でてる主が?」
だからこんのすけも主に懐いていろいろ頑張ってくれてるんだが、そんな主が虎嫌い?
デスクトップ画面を子猫にしてる主が?
誤解の気配を察知…?
「主がそういってたのか?」
「虎くんをあまり近付けないで欲しいと」
山姥切パターンでそう思ってるわけじゃなくて、ほんとに主が言ったのか。
だから食事中や会議中はいなかったのか。
「あっちょっ待っ君まだしっとり濡れてるだろう!」
青目の子虎がよじよじ登ってくる。
「待てっおい君にいたっては乾かしてないよな!?」
金目の子虎がフードの中にすっぽり収まってしまった。
「あぁ虎くんっすみませんー!」
その日こんのすけの講習が終わった後、直球で聞いてみた。
「主は虎が嫌いかい?」
最近は随分と慣れてくれたのか、こうして雑談にも興じてくれるようになった。
「嫌い……ではないですね?」
「五虎退が近付けないように言われたらしいが、猫は好きだよな?」
開きっぱなしだったデスクトップ画面を指差すと以前の白猫からマロ眉猫に変わっていた。絶対好きだろ。
「五虎退くんの虎は……だって、こんのすけみたいに喋らないじゃないですか」
「喋る動物が好きなのか?」
山姥切がギョッとした目で言うけどそれ多分違うぜ。
「し、喋ってくれないとだって、触ったら嫌な所とか分からないじゃないですか。嫌なことはしたくないです」
「つまり本当は触りたいのか?」
「……とても」
やっぱり誤解じゃないか!はい言質頂きましたー
「こんのすけみたいに撫でて平気だぜ?あぁでも腹と後ろ足はあまり触らないほうがいいかもな。というわけでほいっと」
羽織りのフードに手を突っ込んで寝ていた子虎を主へパス
「ええ!?」
「どこにいれてるんだ!?」
「実はよほどフードの中が気に入ったのか定住されてしまってな」
あのずぶ濡れのままinしてきた子だ。
小夜はさりげなく主の膝にいる子虎を撫でている。和睦
「ここ、触るとゴロゴロ言うよ」
「こ、ここここうでしょうか」
力みすぎじゃないか?
「ああそうだ、五虎退が主は虎を嫌ってると思ってるから誤解は解いておいたほうがいいぜ」
「え!?はい、そうします、すみません」
うん、最初の頃なら自己嫌悪モードに入っちゃうから言わなかった。言わずに黙って誤解を解いて、解決してた。
山姥切の誤解についても主は知らない。
けどこの短期間で主は随分と成長した。
今ならちゃんと自分の言動によってもたらされた結果にも責任を持てるだろう。
でないといつまでも距離は縮まないままだ。
今回は私もフォローはしない。
なんだか主、というより幼いきょうだいを育てている気分になるが…主従の形も感情もその本丸それぞれだからな。
少なくとも、今はきっと、
これでいいんじゃないかと私は思う。