「……寝たか」

「ぐっすりだねぇ」

鶯丸と髭切は座布団を枕に寝息を立てる鶴丸の顔を覗き込んだ。
白い肌だからこそ、目の下のクマがよく目立つ。

もともと何を悩んでいたのか眠りの浅い日が続いていたのは察していたが、そこへ見習いの恋心が追い討ちトッピングされたのだから彼の心労は推して知るべしである。

別に二人はそんな鶴丸を休ませようとかしたわけではなく、時間が空いたのでいつも通り絡みに来ただけなのだがそんな“いつも通り"が良かったらしい。

よほど気が抜けたのか、人前で眠ってる鶴丸が珍しいらしい髭切がツンツン頬をついたり髪をいじったりしても目覚める気配がない。

「案外見た目通りに繊細なのかな?」

「むしろ逞しい方だと思うが……逞し過ぎて一人で何でも片付けようとするきらいはあるな。結果、人一倍疲労は溜まる」

そう言って茶を啜る鶯丸からすると、見習いの恋心なんぞ応える気がないなら問答無用でフってしまえばいいのにと思うが、鶴丸はそこからさらに彼女の傷が最小限で済むようにと考えを巡らす。

その優しさもまた、彼の長所ではあるんだろうけれど。

「ありゃ。国永が振ることは確実なんだ?」

「だろう。それにもし鶴丸が見習いの恋に応えてみろ。見習いと向こうの男士は全力で鶴丸を引き抜きにかかるぞ」

『恋と戦は手段を選ばず』
あれで政府のお偉方の愛娘だ。そうなれば後ろ盾のない主は抵抗する術を持たない。
そもそもこうなってはこの本丸に見習いとして来たのははなからそれが目的だったのではないかとすら思う。

「なるほどー。だからにっこり君は全力で向こうの本丸の子たちを牽制してるわけだ」

発覚する前に芽は摘んでおくべきだったと舌打ちしていたことを髭切は思い出した。

「ふふっ青江も鶴丸を好いているから、真っ先にその可能性が頭に浮かんだんだろう」

それで言うと、不可解なのが骨喰藤四郎だ。
彼もまた青江と並んで鶴丸と仲の良い刀剣男士なのだが、今のところ主と見習いのそばにいて何の行動も起こす兆しがない。

まさか見習いの味方では無いと思うが、本丸の軍師と名高い彼が何か策を練っているのか、はたまたそもそも恋心を理解する段階に至っていないのか。

「まあ、細かいことは気にするな」

鶯丸もまた鶴丸を渡す気などさらさらないので。
『恋と戦は手段を選ばず』なので。
つまりは勝てば官軍なので。

そう言う鶯丸の瞳に一欠片の敵意が滲むのに、髭切は口角を上げた。

「見習いが鬼になったら僕が切ってあげるね」

「鶴丸には言うなよ。胃に穴が開く」

ふふふふふと一見穏やかに笑い合う不穏な二人の間で、じつは途中から目覚めていた鶴丸はどうやら自分が思ってたよりまずいことになってるな、と心の涙を流した。
[ 107/113 ]

[前へ] [次へ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -