ぱちっぱちっと交互に盤を叩く音が静かに降り続ける雨に溶けてやや眠気を誘う。くあっと出そうになる欠伸を辛うじて噛み殺した。

パチっ

「あっ」

「ふふっ」

飛車が取られて眠気が飛んだ。
グッとストレッチをして本気出す。

しばらくまた雨と駒が盤を叩く音だけが続き、鶯丸が次の手を決めかねている間に隣で寝転がっている髭切の読んでる本を覗いてみた。ゴリゴリの恋愛少女漫画だった。二度見した。三度見してもやっぱり少女漫画だった。

「うっそだろ君、そんなの読むのか」

「これ?苺くんの弟くんが貸してくれたよ」

「発音が違う、一期な。あと弟の候補が多すぎる」

乱だろうけど。

鶯丸がパチリと香を動かすと私の金が狩られた。

「あッくそ勝ち筋消えた」

「対局中にうたた寝してたのが悪い」

「参った投了だ。次は囲碁にしようオセロでも可」

「勝てないから嫌だ」

「暴君か」

もう一戦する気にはならず、適当に駒を弄っていたらいつの間にか髭切も参戦した将棋崩しが始まってた。

そんなゆるゆるとした空気感のこの部屋は随分と息がしやすい。





あれからどうも本丸の居心地が悪い。

光忠の言った私の動向が注目されている、というのは比喩でも誇張表現でも無かった。

ステータス的には汎用性の高いバランス型で偵察値は高くないはずなのにそこかしこで感じる視線視線熱視線。
みんな隠蔽値ゴミかよ。

荒れてるって?荒れもするだろこんなん。
万屋街だって未だに視線が刺さるのに、本丸でもこれとか私の休まる場所は自室しかないもうヤダ引きこもろ。

自慢じゃないが、ただの事実として鶴丸国永は美しい。
刀剣男士は系統はさまざまながら例外無く綺麗な容姿をしているけれど、芸術品のような美しさの中に実践刀としての苛烈な美を閉じ込め、鶴の名に相応しい清廉さをも合わせ持つのが鶴丸だ。

この間改めて鏡の前で(顔良いな…)と自画自賛したくらいには顔が良い。

それを考えたらね、まあ確かに年頃の娘さんの惚れた腫れたに巻き込まれるのは無理ないわけよ。
ブラック審神者候補に絡まれるのに比べたら可愛らしいもんよ。

(でも刀剣男士なんだよなーー!!?)

いくら顔良くたって大怪我も手入れ部屋でちゃっと直る摩訶不思議人外に惚れるか!?
そりゃ日本に留まらず山も海も越えて古今東西異類婚姻譚は存在するけどファンタジーじゃん。考えられない私がおかしいの?そんなことある?


_______私がおかしかったらしい。


「アッハッハハハ!きみはほんとに話題に事欠かないな!そりゃいくら刀の付喪神っても刀剣男士は見た目も中身も人間に寄せてあるからな。恋の一つや二つするしされるだろう」

電話越しに笑い転げる紅鶴はそう言って、聞く相手を間違えたかと訝しむ私に嘘じゃないぞと例を上げ連ねた。

「まず身近で言えば俺の前任の嫁だ。前任の片思い時代、奥方が惚れてた相手が薬研でな?薬研に男気で勝てる人間はいない。敗北。三日月ならまだ嫉妬くらい出来たってよくやけ酒に付き合ったもんだ」

「それから万屋東地区にある酒屋の店主。元審神者だが現役時代、次郎太刀を落とすために酒の勉強をしたら利酒のプロになっちまったってオチ付きさ。他にも政府の受付嬢だろ?養成所の新人がって話もあるな」

「あ、刀剣男士の方が惚れたってのならよく聞くのは一護一振だ。さすが豊臣の刀ってとこだよなあ!それから一時期有名になったのは万屋の美女に一目惚れしてこっ酷く振られた三日月宗近とか。まあそうやって元主の影響だったり逸話だったり、あとは面倒見の良さが高じてとか?そういう性質を持ったタイプの刀剣男士は知られてないだけで案外いるんだぜ?」

マジかよ時代はグローバル。グロー…バル?
国や人種どころか種族超えてるけどきっと多分大雑把に言えばニュアンス的にグローバル。

「君はとても合理的考え方をする刀剣男士だから考えが及ばなかったのも無理あるまいさ。そちらもまた、珍しいものじゃない」

「そうか。ちなみにこれからどう行動するのが正解なのかご教授頂いても?」

「恋にマニュアルなんてないんだぜ!」

「バルス」

「目がぁぁぁぁあっ!」

そのノリの良さ、今はただ腹立たしい。







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