天衣無縫の妖は

主の起床をお手伝いします

さてさて、長い人生…いや妖生?を経て幾数年でしょうか。まあそんな数字に意味はございません。大切なのは今ですから。
そんな大切なの"今"でございますが、

「静司くん?いい加減朝一番で簀巻きにするのはやめて下さいませ」

この困った主様は良いお年をして朝が弱くてらっしゃるようで、起こすたびに呪符で簀巻きにするのでございます。なんとタチの悪いことでございましょう。
この我が主、的場静司くんの式となって早一月、朝のお目覚めを七瀬様に義務化されてから幾日か。簀巻きにされなかった日はございません。そのうち庭の池にでも投げ捨てられるのではと冷や冷やものです。
そうそう、わたくしの1日はそんな暴力的……今風に言うのならバイオレンスに始まるのでございます。ちなみにこのバイオレンス。てれび なる箱から流れる情報にあったのですが、なかなかカッコ良さげな響きで気に入っております。ああでもバイオレンスな朝を気に入ってる訳ではございませんのでそこのところは勘違いなさいませぬよう。
しかしこの"てれび"なかなか出来る奴でございますね。初めてお会いした時には大層驚いたものですが、その辺のことは今は割愛いたします。閑話休題。

「お前の起こし方に問題があると良い加減気付きなさい」

はて?わたくしはただ、この前の書店で見つけた本の通りに起こしてさしあげているだけなのでございますが……。

「朝から枕元でラジオ体操をしろとでも書いてありましたか」
「ラジオ体操の歌を歌えと書いてありました」
「……ラジオ体操とラジオ体操の歌は同じではありません」
「え!?」

しかもどっちにしろラジオ体操する必要はない、とか云々おっしゃってられますが、今はそれどころではありません!

「どういうことにございます?わたくし、地域のおじさま達に教わりましたのに!ちょっ、痛い痛い踏まないで下さいませ」
「……また脱走しましたね」

おっと、口が滑りました。
ええ、そうです。何を隠そうわたくし、その気になれば見えぬ人にも見えるようにすることができるのです。一人旅を続ける間、特に使い道のない力だと思ってはいましたがいやはや、人と暮らす現在においてはなんと便利な力にございましょう。ご近所付き合いは大切だと てれび でもおっしゃっておりました。
というわけで、基本は屋敷内のみ自由を許されてはおりますがフラフラと旅を続けていたわたくしにそれは酷というもので、人目を盗んでは見目が怪しげで贔屓目にみてもご近所付き合いしてるように見えない我が主人の代わりを勤しんでいるわけです。遊んでるわけではないのです、ええ!ちょっと仲良くなったおじさまやおばさまはお菓子をくれたりしますけどっ決してそれ目当てとか、遊んでるわけではないですとも!

「犬か猫か……」

そんな静司くんの今にも呆れ項垂れそうな言葉に物申したい気はしますが、なにぶん、簀巻きのままにございまして圧倒的不利。ここはひとつ大人になってお口チャックにございます。
ところでですね、

そろそろ拘束解いていいですか?

(自力で解ける所が腹立たしい…)

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