天衣無縫の妖は

主を糾弾したいです!

我が主はきっと鬼の子でございます。鬼畜っぷりが爆発してございます。
正直に言えば、わたくしも多少は悪いと思っているのですよ。許されている行動範囲が屋敷の中だけなのにも関わらず好き勝手に抜け出していたのですから。でも、でも、だからって……!

「大妖怪の真ん前に放り出すこと無いではございませんかーー!」

バキバキ音を立て、わたくしを捕食しようと迫り来るのは大きな鳥のような大妖です。わたくしは決しておいしくありませんよぅ!
騙されました、屋敷から自ら連れ出してくれた時はどんな所に連れて行ってくれるのかとワクワクしたものにございますが、まさか囮に使われるとは。年上への敬意というものがなっていません、これが所謂「これだから最近の若者は!」っというやつでございますね?いえ、彼がわたくしの主人、ではあるのですが。今思えば今朝の妙に黒光りするいい笑顔で気付くべきでした。しょんぼり。

スカンッ
「ひょえっ」

確実に頭を狙ってきてます!ギリギリ避けたお陰で木にぶっすりと刺さったクチバシの隙間からチラチラ覗くキバが怖いです。わたくしに戦闘の才はないのですよ!友人が強いのでそっち方面は全力で押し付けておりましたし、旅に出てからはこのような危機になる前に逃げ果せておりました。だから、つまり、

「《静司くん、助けてくださいませー!》」
「!?」

姿も気配も無い主に思念を叩きつけるように送れば静司くんからは動揺が伝わってきました。

「《何ですか今のは?》」
「《わたくしの数少ない特技でございます。声が届かなくても多少離れてるくらいなら思念伝達できます!》」

役に立ちそうでしょう?だから助けてくださいませ!静司くんが式を使い捨ての如く使う時があるのは知っています。まだ日は浅いですが、そうやって顔を合わせては消えていった式は片手では足りません。ですが、わたくしもそのうちの一人になるわけにはいかないのです。まだ大切な友人に再会も出来ていないのですから。ほかに出来ることは?とこんな状況なのに問いかけてくる彼に不満を膨らませながら答えます。
視覚共有……読んで字の如く字の如く視覚を共有できます。
姿眩まし……ある程度の相手に認識されなくなります。しかし目の前の鳥さんには効きません。ピンチです。
何やら考えるような沈黙の間に、やっと静司くんの姿を見つけました。背後に鳥さんを引っ付けながら涙目で駆け寄ると矢をつがえ、なんと一撃必殺。流石は的場一門頭首、ですがこれってわたくしが囮になる意味ありました?
さらさら崩れゆく鳥さんを背景に息も絶え絶えなわたくしを見下ろし静司くんは言いました。

「使い道がありそうなので、もう暫くは働いてもらいましょう」

ああ勿論、今祓った鳥の分も上乗せで


このヤロー!!でございます……!

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