さてここまで前置きである。本題はここから。

そう認識問題までは予想通り。分霊たちも途中から一部いっそ玉砕覚悟の徹夜明けテンションみたいなノリだった。受け入れられたらラッキー、幸運値EX的な。政府職員はまた泣いた。

誤算は悪意の方だ。
付喪神は神で妖怪であるがまず無機物。
それも本霊たちは長年求められ愛され時に信仰され大切に現代まで受け継がれてきた刀だ。

刀が人を切ったところで刀を怨む人間がいるか?否、恨むのは切った人間であって刀ではない。
彼らは人の愚かさも醜悪さも多く見てきたが、人の子から自身に向けられてきたのは悪意ではなく愛である。

すなわち、初めて向けられる悪意に対する耐性が無かったのだ。

認識うんぬん本物はどっちうんぬんの先に、山姥切長義を悪意を持って貶めようとした愚かな審神者たちの念が、巡り巡って本霊まで届いてしまったのである。

悪意で穢れる己に本科はさすがに慌てたし、写しは本気で腹切りを考えた。刀匠の姿を色濃く受け継いだ写しの兄弟が一番荒ぶったかもしれない。

まさか本霊の穢れをそのままにするわけにもいかなかったが政府側の対処も間に合わず、審神者界が落ち着くより先に限界が来た。
消滅こそしていないが、本来の本体ではない依代では自力で顕現を保つことが難しくなったのだ。

審神者に顕現させて本霊に人間の霊力を混ぜるわけにもいかない。だから事が済むまで休息ついでに眠ってもらうことにした。

ここで手違いが起きた。

聚楽代報酬で配布する山姥切の依代を補充に来たとある報酬管理部の職員(徹夜記録更新中)が、本霊の宿る依代を未顕現の普通の依代ととんでもねぇ勘違いを起こしたまま自分の部署に持ち帰り報酬刀剣の中に混ぜ込みやがったのだ。

発覚した時には時すでに遅し。
本霊はとある本丸へ報酬として送られた後だった。

聞きつけた所蔵元を同じくする徳美面子はムンクになったし刀派の親類たちは発狂するし縁刀たちは白目を向いて倒れた。

そんな大騒動の末、やっっと突き止めたその本丸に政府が突撃するとさらなる悲劇。

審神者は山姥切国広モンペであった。
本霊に霊力をそそいで顕現してしまっただけなら政府の落ち度。審神者に非はなく、返してもらえればそれでよかった。
しかし審神者は山姥切の偽物くん呼びを矯正すべく、蔵入り、食抜き、刀装なしの出陣、存在否定などなど話題()の方法を一通り実践したらしい。ギルティ。審神者は速やかに拘束された。

改変された歴史で過去の主をも正史のためにと殺す鋼の精神を持つ山姥切はもちろん折れやしないので、意地になり最終的に流行り()の阿津賀志山単騎出陣を命じたと尋問で吐いた。

本霊たる山姥切がそう簡単に折れるわけない、と思いたいがここまで軟禁だなんだと審神者の命じるがままにされてるあたり、彼の方でも何らかの不具合があったんだろう。
生存は望み薄だ。

この辺で政府は「あっこれ終わったな」と敗戦を覚悟した。

徳川美術館に所蔵されているかの刀剣は、別に本霊が消えたとて折れたりはしないが本当の意味でただの刀になる。

何も語らず、何も愛しまぬただのモノになる。

山姥切は縁刀の多い刀だ。

その山姥切が、しかも本霊が単騎出陣の末に破壊されれば多くの付喪神がこの戦争から手を引くだろう。
むしろ認識の歪みが発覚した時点で一部、特に逸話から成る付喪神たちがだいぶ「は?それでも審神者?俺たちは審神者のおもちゃでもコレクションでもないんですけど??切っちゃう?」状態でやばかったのを、とうの本刃が宥めていたくらいなので。ブレーキの壊れた神々はアクセル全開まで秒読みだった。
すでにスタートダッシュをキメるためのアクセルボタンは押されてる。お願いだからせめてエンスト起こして……。政府は祈った。


そんな周囲の喧騒を他所に、彼はある日ひょっこりと帰ってきた。

傷こそ負ってはいたがそんなもの関係ないとばかりにピンピンして、疲弊していたはずのその魂はキラキラと輝きを取り戻してすらいた。


「てっっめぇ何してやがった!!」
「聞いて聞いて猫殺しくん!」

安堵が一周回って怒りに変換された南泉一文字は一応怪我に触らぬよう掴みかかったが、山姥切はそんな旧友の手をむしろ逃さんとばかりに握り込む。

興奮して頬を上気させ、子供のようにキラッキラと輝く顔に、周りではらはら見守っていた人間たちは心労も祟って「カオガイイ」と遺言を残し昇天した。我が一生にいっぺんの悔いなし。来世はきっとJKの飼い猫になるんだ……。


想定外の反応にちょっと気圧された南泉だがそこは昔馴染み、こいつの顔の良さには慣れている。ついでに悲しきかな、振り回されるのにも慣れていたのでとりあえず話を聞いてやることにし、「あのね」と目元を蕩けさせた山姥切は無邪気に報告した。


「俺、恋をしたんだ!」

「………………は?」


おーけーおーけーちょっと落ち着こう。
ひっひっふー。
深呼吸?した南泉は速やかにメンテナンス部門に鬼電した。

山姥切がこわれた!!!!!にゃ!!!!
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