これはそんじょそこらの審神者では知ることのできない情報である。

《政府には特別な刀剣男士がいる》

本丸及び政府施設内にてその力を貸して下さっている刀剣男士たち、その大元。
いわゆる「本霊」とされる正真正銘本物の刀に宿る付喪神が降りた刀剣男士。

一部の特殊な刀剣男士を除き必ずいる各付喪神の本霊たちは人間に力を貸すにあたって始めの頃こそ現世に留まったまま分霊を降ろしていたが、いつの頃からか還ってくる分霊の魂の中にボロボロの魂が混じり始めた。

のちにブラック本丸と呼ばれる本丸から還った分霊たちである。

まあ人間だもの。間違えることもあるよね、としばらく静観していた本霊たちではあるがそんな彼らに調子に乗ったのか一部の頭の緩い者たち……審神者に留まらず政府職員まで刀剣男士を金儲け、権力争い、はては何をとち狂ったか性のはけ口にし始めた。

本霊、そしてその刀を所有する土地や神社に座す神々はこれには流石に呆れ果て、怒り、控えめにいってブチ切れた。
特に分霊といえど神刀を汚された祭神の怒りに真面目に戦争していた人の子は泡を吐いて倒れた。

そうした経緯あって導入されたのが本霊個体が刀剣男士と同じように肉体を持って政府および審神者を監視する制度。

彼は政府に所属しているが、基本自由に動き、政府内にとどまらず万屋や演練会場で日々人間を監視している。

残念ながらそうまでしてもブラック本丸は無くならないのだが、人間の愚かさを長く見届けてきた人外たちは「許容範囲じゃね?」と大海原のように広い心で受け止めていた。

しかしもし万が一、彼らが人間に愛想を尽かすようなことがあれば本霊は分霊を降ろさなくなる。

だから本霊個体の扱いはとても慎重に行われてきた。
幸いにもこの戦争に手を貸してくれているだけあって、人間味に欠ける神様成分の強い本霊といえど人間には好意的だったから今まで特に大きな問題が起きたことはなかった。


『特命調査 聚楽代』

その優評価取得報酬として、とある本丸に本霊 山姥切長義が送られるまでは。




それは別に腐ったミカンのような連中の権力争いに巻き込まれたとか、潜伏していた歴史修正主義者の目論みだとかそういうのではない。

政府側に全く非がないかと言われれば断じて否だが、悪意はまったくなく不幸に不幸が重なった事故だったのだ。

後に「山姥切問題」とされるあの騒動の悪意の奔流を、本霊 山姥切は受けていた。

それまでも着実に積もり重なっていた認識の歪み。
ぶっちゃけ分霊であるならば審神者の認識は死活問題であるが、本霊は「山姥切長義」という名ではない上に「山姥切」「本科 山姥切」「本作 長義」「本作 長義(以外五十八字略)」など複数の呼び名を持ちさらに刀匠すらながよしとちょうぎの二つの読みがある。
なので山姥切の認識問題程度ならどう思っているかは別にして、なんて事はない。

しかし悪意は別だ。

これは政府、そして便宜上「山姥切」と呼ばれている本霊の最大の誤算であった。


本作長義が山姥切長義として顕現したのはその方が審神者の、ひいてはこの戦の力となりやすかったからだ。

本作長義より、「霊剣 山姥切」の方がなんかすごそう。

専門家でも刀匠でも刀マニアでもない人間の認識なんてそんなもんである。

そんなもんではあるが、刀剣男士を顕現するにあたってイメージは大事。なにより霊刀とすることで遡行軍だけでなく怪異も相手取れるようになる。一石二鳥。ただの刀剣男士になれる付喪神は多いが霊刀となると希少だったので。なんとしても欲しい刀剣と名前と能力だった。

ただまあ彼はお世辞にも素人向きの刀剣男士ではなかった。
人間愛天元突破、事務処理能力優評価、戦闘意欲満タン、コミュニケーション能力充分。
ちょっと内番のやる気に欠けるが堂々とサボるどこかの春告鳥に比べれば真面目で可愛いものである。
しかし優秀であるが故に、ただでさえ社会人経験のある審神者が少ない中で、慣れない業務と戦争を乗り越え共に成長し合っていく刀には向かないだろうと評価された。
最悪審神者が使えねぇ人間だろうと彼一人で舵取りできてしまうので。
主が刀剣に頼るのは結構だが寄りかかってはいけない。
信頼に至るまでの過程がない信頼は、信頼ではなく責任放棄の依存である。
その先にあるのは主従逆転の恐ろしい顛末だ。

初期刀はもちろん、初期実装組はそういったことを吟味し熟考された末に決定した面子なのだ。

そうして見送られた実装の間にまさか写したる山姥切国広が本物の山姥切として認識されるとは思ってもみなかったわけだが。
これが政府の最初の誤算でもある。


まあそんなこんながあり、さらに様々な思惑を抱えてついに実装された山姥切であるが、審神者たちの反応は……いや、言わずとも分かるというものだろう。

予想できていたことだったが本霊もちょっと真顔になるくらいには酷かった。

ただそこまではいい。「良くないです!!」と政府職員の子たちは嘆いたが、嘆いてくれるその子たちが可愛いのでモーマンタイ。顔も合わせたことなけりゃ俺の素晴らしさも分からない人の子より政府の子たちが可愛いよね!そんな彼の旧友はフレーメン反応した猫みたいな顔してたけど。そういうとこだぞ山姥切。
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