ハローハロー、突然ですがこの店ってなんの店だっけ?という疑問をお客様方から度々いただく今日この頃。

万屋兼カフェ兼占い処ですよ!と答えるも苦しくなってきた。

それもそのはず、この万屋街ではいわゆる心霊現象とか怪奇現象というものにある程度理解のある審神者がわんさかいるわけで、さらに理解があるだけで耐性のない人間もわんさかいるわけで、ついでに付喪神謳ってるくせに怖がりな刀剣男士もいる。

そんな彼らを脅かしたりしてるうちに、現世よりも格段に早く妖怪として力をつける事ができたのだ。こりゃ嬉しい大誤算。ホウエン地方はミロカロスとサーナイトが好きだった。

まあ、なんだ、つまり……、

「「おぜわになりまじだ〜〜!!」」

開店から今まで従業員として働いてくれていた我が翼下の子からぞろぞろと卒業生が出たわけだ。

「ほらほら泣かないの。強くなったんでしょう?」

滝のように目から鼻から出るもの出し尽くす勢いで垂れ流す顔にハンカチを当てる。

アッだめだ足りない。ちょっと秋田バスタオル持ってきてくれる?おっと君の顔もなかなかだったね??

グズグズ泣く彼らを宥める。

私の庇護下から出て行く子は初めてじゃない。なんなら同じ卒業生で今は万屋街に店を構える子らだっているのだ。
私のように上手く怪異対策部から逃れられているようで良かった。どうも最近はそれも難しくなっているとの噂だけれど。

それは置いといて、そんな先輩たちは気軽に店にも遊びに来ているし、彼らも知ってるはずなのだけど……。

「そういう問題じゃないんです!!」

そ、そうか…ごめんよ。

でも卒業は卒業だ。私が守らずとも生きていけるほど強くなった時点で、私は心を鬼にして子やらいしなければならない。彼らは秋田と違って現世で産まれて現世で生きるはずの妖怪だから。遊びに来るのはいいけどね。

そもそもの話。

私が翼下にいれるのは自力で生きていけない弱い妖怪たちのみというスタンスを貫いている。

それは彼らのためであり、私が大きな戦力を持たないためでもある。

神々の戦いとは比べものにならないものの、妖怪同士の縄張り争いや派閥争いだってかなり苛烈なのだ。

関東妖怪と京妖怪の因縁対決とか二度と巻き込まれたくない。あの小半妖怪若頭はぜったいに許さん。

普段は睨み合いの拮抗状態を平和に維持してはいるものの、そこに私という長生きなだけでふらふらと領土も持たず中途半端に強い大妖怪が一つ一つは小さなもののかなりの数の小、中妖怪なんか従えてみろ?

各地の勢力争いに巻き込まれること待った無し。

やめろ私は平和に生きたい切実に。
というかちょっと力をつけただけの子たちを争いに巻き込むんじゃないわ!!


そんなこんなで数年経てば、今や店を切り盛りしていけるのは店長である私と秋田と従業員一名しかなくなっていた。

翼下の子はまだいるが、妖怪として生まれたてだったり人の姿に化けられないほど弱い子たちなので基本的に裏方でフヨフヨ浮いたり跳ねたりている。

まっくろくろすけやケサランパサランみたいで可愛い子たちだ。
ただし彼らは立派な怪奇現象の雛なので人間は油断してはいけない。油断すればパックンチョ。手加減をしらない分、卒業生たちより凶悪である。


場所が場所だけに客入りは多い方じゃないとはいえ、そんな状態で店を今まで通り回すのはさすがに無理なので、しばらく万屋要素は休業だ。
在庫処分程度にはやってるけど仕入れはしていない。
営業時間も短縮した。


「クロハ様、終わったらいち兄の本丸に行っていいですか?お泊りの約束なんです」

「あら、ならここはもういいから支度してきなさいな。いつもの広場で待ってくれているんでしょう?」

「いえ、でも」

遠慮する秋田の背をいいから、と押して下がらせる。
実際、床の磨き掃除も終わってるので後は帳簿付けたりといった細々したことしか残っていない。

パタパタとお泊りセットを取りに行く秋田を見送って、私はアップにしていた髪を下ろした。

愛用している留め具は秋田が初めての給料でプレゼントしてくれたバレッタである。

ルビーを基調としたリシア輝石との組み合わせは可愛らしい。リシア輝石でも桃色をしているからクンツァイトと呼ばれる石だろう。

貰った時はこの組み合わせの意味を知ってる?と聞いてしまった。
まあ私に赤が似合うからってだけで意味は知らなかったわけだが。

パワーストーンはそれぞれ単体でも効果や意味を持つのだが、組み合わせにも意味があるのだ。

ずっと昔、あれは弟弟子が死んで幾年か過ぎた頃だったろうか。
まだ日本でも今では掘り尽くされてしまったような宝石たちが普通に発掘できた頃。

私は突発的に宝石にハマった事があった。

各地で力を持つ妖怪がわんさかいた時代だったので、そういった妖怪の争い事に巻き込まれないように引きこもるための趣味でもあったのだけど。

集めたり、加工したり、時には自力で掘ってみたり。

テレビも無ぇ、ラジオも無ぇ、車はそもそも開発されて無ぇ。

そんな吉◯三も絶望する時代でステイホームできる趣味など限られていた。
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