覚悟はしていても、「いらない」という一言が、あんなにも痛いというのは初めて知った。

行くあてもなく、帰るあてもなく、散々否定され尽くした今のこの身では、還るあてもない。

血は止まらず、腕は上がらず、片目は見えず。
それでもむざむざ殺られてたまるかと、プライドだけでひたすらに足を進めた。

先ほどまで雨が降っていたせいで山道特有の土は水気をよく含み歩きにくい。
何度も足を取られ、転び、立ち、歩き、倒れ、這い、進み。

とうとう体力尽きてズルリと木にもたれるように座り込む。

戦の喧騒が遠い。
遡行軍の出現範囲からも大きく外れてしまっただろう。

果たしてこれで良かったのだろうか。

疑問が鎌首をもたげる。

矜持があった。敵に一太刀も浴びせられないままに無力に折れるのは嫌だった。
でも、何もないこの場所で、何もせず、何もできずに朽ちるのと、果たしてどちらがマシだったのか。

「……どちらにしても、同じことか」

「何が?」

そっと溢れた自問自答へ前触れもなく聞こえた声に心臓が跳ねた。
息を飲む。
刀を構えようと力を入れたところで腕が動かないことを思い出して顔を上げ、

すぐ目の前の、夕刻の空を閉じこめた瞳が脳裏を焼いた。

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