とある本丸の話。
その本丸には秋田藤四郎がいなかった。
就任してから二桁の年月を審神者として過ごし、ベテランと呼ばれて久しく、しかし何をどうやっても秋田が来ない。
いろいろ調査した結果、審神者には秋田が顕現出来ない、という事実のみが残った。
なにより不幸だったのはこの本丸の一期一振が典型的な長男属性だったこと、そして顕現するのが圧倒的に遅かったことだ。
粟田口待望の一期一振が顕現した時、可愛らしい弟たちのほとんどがすでに上限という可愛らしくない強さ。
それどころか修行済みまでチラホラと。
「日々の鍛錬頑張っているかな」のセリフの後、
一期一振(Lv.1)のプライドはなす術なく傷ついた。
こっそり泣いた。
困っていたら助けてやりたい弟たちにはむしろこちらが世話される。
初めての睡眠が上手く取れず、五虎退に子守唄を歌われた夜はちょっとした虚無だった。
誤解がないように言っておく。一期は弟たちを守ってやらねばならないか弱い存在だとは思っていない。
主の刀として振る舞う姿は誇らしい。
ただちょっと、お兄ちゃん風を吹かせて欲しかっただけなのだ。
「いち兄すごい!」とか「いち兄には敵わねぇな」とか言われてチヤホヤされたかった。
「一期一振、参る!」の後にせめて刀を抜く暇くらい欲しかった。棒立ちのまま遠戦で全てが終わった時、同部隊で同時期に顕現した大包平にポンと無言で肩に手をおかれた。泣くのは我慢した。
前置きが長くなったが、つまり一期一振は弟に飢えていた。存分に鍛え、叱り、甘やかしてやれる弟に。
次に新たな弟が実装されるのはいつになるか分からず、主はドロップ運もイマイチだったので大阪城は望み薄。
ゆえに秋田藤四郎に賭けていた。そこに来て明かされる秋田難民の真相。
一期一振は崩れ落ちた。
まさか別の一期一振の弟の秋田藤四郎を自分の弟のように可愛がるわけにもいかなかった。
同じ刀だけど違う刀という特殊な存在ゆえに。
全てを把握しており、哀れに思った審神者が見つけてきたとあるカフェの秋田藤四郎(フリー)。
沼るしか無い。
幸か不幸か秋田もまた一期一振に焦がれていたので。
秋田の様子から訳ありというのは分かったし、通ううちに店で働いている従業員がどうも人間ではないっぽいことにも気付いた。ならば店主も只者じゃなかろう。
しかしそれがどうした?
秋田が健やかに働いている。
それがたった一つの事実で真実だ。
だから、あの場でクロハたちを庇ったのも当然であると一期は声高に主張する。