「聞いてよ店長さん!この間担当のハゲがさーアポなしで乗り込んできたくせにたまたま昼寝起きだっただけなのに寝癖目ざとく見つけて髪の乱れは心の乱れ〜とかえっらそうに吐かすからつい、じゃあ髪の不足は心の不足ですね!って言い返したらどうなったと思う?ノルマ倍になったんだけど!?」
「あら座布団3枚。ただ文句つけたいだけのクレーマーって迷惑よねー」
カウンターで皿を拭きながら客の愚痴に付き合うのも店員の仕事だ。
あくまでも仕事である。
たまに面白い話も聞けるからまあ良し。
飲んでたコーヒーの無くなったところで、丁度良い頃合いのオーブンを開ける。
フワッと漂う焼き立てスコーンの香り。キツネ色の生地。
「あつつつ」
ためしに一つ手に取り、熱さにお手玉しながら少し冷まして真ん中で二つに割ってみる。
サクッと音を立てて割れたスコーンからふわりと白い湯気が登った。
あら良い焼き加減。
味見と称して欠けらを口に放り込めばさっくりした食感の後に卵とミルク、バターの優しい甘さがほろほろと広がる。
ちょこちょこっと匂いにつられてきた看板息子の口にも放り込んであげればたちまち桜がふわっと舞った。
うーん、相変わらず不思議な現象。
「とっても美味しいです!」
「ゴクリ」
「こちら新メニューのスコーン味は二種類、おひとつ180円。コーヒーのお供にいかがですか?」
「コーヒー飲み干した後に言わないで!?おかわりお願いします、あとスコーン2つ!」
「まいどありがとうございます!」
「ああん秋田きゅん可愛ゅぃ」
怪しげな発声をしだしたお客からそっと秋田を遠ざける。
うんうん、あっちのお手伝いしておいてね。変態さんに近づいちゃダメだよ。
防犯ブザーとか持たせてほうがいいかな?
近々入荷しておこう。
そうだ、ついでに改造を施してブザーを鳴らすと魑魅魍魎を呼び寄せる装置なんてどうだろう。所有者の安全確保が出来れば検討の余地ありだな。
変態は死すべし慈悲はない。
「店長、占い希望のお客様です」
はいはいただいま。
場所は万屋街東方面、店長はエセ陰陽師じゃなくてガチもんの妖怪だし、店員に妖狐はいないけれど、
「よろず占い処クロハ屋へようこそ」
新しい従業員を加え、本日も元気に営業中です。