「いらっしゃいま……せ」

カランカランといういつもの来客ベルの音に反応していらっしゃいませ、と声をかける。

軍服ではなく簡易的な服にお揃いのエプロンを付け、はじめは慣れなかった業務もそこそこ慣れた頃、それは秋田藤四郎の前に現れた。

サラリとした水色の髪に金色の瞳。
かっちり着こなされた派手目の軍服。

唖然とする秋田に穏やかで優しい微笑みが向けられた。

「ここで働いている秋田かな?噂でここのスコーンが絶品だと聞いてね。主と食べに来たんだが」

「秋田、席にご案内」

「ひゃい!!!」

固まったままの秋田を見かねて声をかけると驚いて飛び上がった勢いのままこっちです!と席に案内をする。

右手と右足が同時に出てるんだけど、何をそんなに緊張しているのだろうか。

王室感の強いあの刀剣は見かけることはあっても来るのは初めてだ。名は知らん。

基本的にあのくそ狭い路地裏を通れていざという時に主を守れる刀となると脇差以下が多い。少し頑張って太刀、打刀だ。
大太刀の中にはなぜか短刀サイズの刀剣男士もいるけれど、あれはあれで刀が路地裏に引っかかるのだ。

本体を携帯しない刀剣男士はいない。

この店にとって厄介な御神刀は大太刀だからそこでふるいにかけているのだ。

見るからにあの刀は太刀だろう。
細身だから通れるだろうが……わざわざ太刀を連れてくるなんてお気に入りなのだろうか。

「こちらがメニューで、スコーンは、えっと」

「あと五分で焼き立てが出ますよ」

「です!」

カウンター近くのテーブルを希望した主従は秋田からメニューを受け取ると、アレコレと質問しながら秋田に注文を告げる。

「クリームはサービスでお付けできます。クリームがお好きでしたら紅茶はせいろんてぃーがおすすめですよ。僕はみるくてぃーが好きです」

この距離ならわざわざ秋田を通さなくても聞こえているので先んじて紅茶をいれる。

秋田のおすすめをそのまま注文してくれるのでやりやすい。

ちらりと確認すると、どうもスコーンや紅茶はおまけかな?という印象。

あの太刀がバレない程度にそわそわしながら秋田と話す様子を見て、審神者が顔を覆って天を仰いだ。


あの反応知ってる。200年前からある、
仰げば尊死ってやつだ。


オーブンから焼き上がったスコーンを出していると、奥で作業していた子がこそっと話しかけてきた。

「あの太刀、確かあれですよ、秋田と同じ刀派粟田口で長兄の」

一期一振。

その名を聞いて理解した。
秋田は一期一振に会いたい、と言ったのが発端で審神者に捨てられたのだ。

彼にとってあの太刀は、親愛と憧憬の対象で一日千秋の待ち刀だった。
であると同時に捨てられた過去を思い起こす存在なわけか。

当時の秋田が万屋街に詳しくなかったことからあまり来たことがないことはわかっていたし私も行ったことがないが、

演練というものを行う場所も万屋と同じようにたくさんの本丸の刀剣男士が入り乱れるそうだ。が、あの本丸の環境であれば他本丸の刀剣男士と談笑することもなかっただろう。

つまりはこれが秋田にとって初めての長兄との邂逅になる。

その心には嬉しさだけでなく、複雑な思いが渦巻いていることだろう。

ここに腰を据えたとしても彼は刀剣男士。
人に使われる刀であり、人に愛されたが故の付喪神であり、時間遡行軍を屠るために呼ばれた戦士なのだ。

人に捨てられた、役目を果たせなくなったという事実は秋田の中にしっかりと居座ってしまっている。

そればかりは妖怪の私たちにはどうもできないものだった。
妖怪は、神になれても人にはなれない。
人に化ける事はできても、それは人間ではない。


注文を取り終わった秋田が伝えに来る。

テーブル席に背を向けた秋田の背に「あぁっ」という感じで手を伸ばした太刀の姿は私からははっきり見えてしまった。

顔布をしていなかったらバッチリ目もあっていたと思う。向こうも見られたことに気付いたのか気まずそうに目を逸らして手を下ろす。

なんか悪いことした気分なんだけど。

注文表を受け取って、ちらりと太刀を気にする素振りの秋田に声をかける。

「いい時間だから、ついでに秋田もおやつにしなさい」

注文の品は私が席に運び、別に用意したミルクたっぷりめのミルクティーとスコーンのセットを渡した。

秋田の好きなようにするといい。
秋田にとって良いようになると良い。


隠してるつもりらしいけどわりとバレバレにそわそわしている一期一振はテーブルの下でぐっと拳を握った。

何か決意したっぽい。

「アきた!!」

……声、裏返ってますよお兄さん。

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