本丸は解体になった。

当たり前だ。原因不明の怪異を担当官になすりつけようと呪いに手を出したんだから。
担当官はこの本丸の有り様を、審神者の精神状況を知っていながら放置していたクズなので和泉守の胸は全く痛まなかったけれど。

解体にあたり、刀剣男士はバラバラに引き継がれるか、刀解かを選ぶことになった。

ほとんどの刀は引継ぎを選んだ。

主は将として相応しくはなかったけれど、だからといって人間の全てに絶望する程ではなかったから。

レアと呼ばれる刀達は比較的早く引継ぎ先が見つかり、仲間達の激励を受け去っていった。

一人、また一人と去り、そして和泉守もそうしてとある本丸に引き継がれた。

まだ多く刀剣の揃っていない本丸で大きな戦力となり、まだまだ頼りないながらも刀剣を愛するいい主に巡り合えたのは幸運なことだった。

ただ、ふとした時に秋田を思い出すだけで。

ある日、主の付き添いで万屋を歩いていると屋台の饅頭屋のオヤジと話し込む秋田藤四郎がいた。

「これすごく美味しかったです」

「おぅボウズ、クロハちゃんとこの噂の新人か?頑張ってるらしいじゃねーの。よし!ちょっとオマケしてやろう」

「わあ!ありがとうございます。また買いに来ますね!」

わしゃわしゃと頭を撫でられている秋田はとても幸せそうに笑っている。きっと良い主に顕現して貰えたのだろう。

もしかしたら、前の本丸の秋田もあんな風に笑えたのかもしれない。

ああダメだ。今の本丸にだって秋田はいるんだ。こんなんじゃ失礼だろ。

「和泉さーん?」

「あ、悪りぃ主」

いつの間にか少し離れてしまっていた主を追いかけようとした時。

ぽすんっ

と腰に何か当たった。というか弾いた?

「わっすみません!」

聞こえた声に慌てて振り向くと秋田藤四郎が転けていた。饅頭の紙袋を抱えていてさっきの秋田藤四郎だとすぐに分かった。

「すまねぇ見てなかった、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ、元気いっぱいです!僕の方こそすみませんでした和泉守さん。そうだ!お詫びにこれあげますね。僕の大好物です!それじゃあお元気で!」

そう言って和泉守の手に饅頭を三つ乗せるとペコリと頭を下げて走り去って行った。

断る暇もなかった。

ふと何気なく地面を見ると秋田藤四郎の倒れていた場所に何かある。
落とし物なら届けてやらねぇと。あの饅頭屋に預ければいいだろうか。

そう思ってソレを拾い上げ、和泉守の思考が停止した。

小さなお守り袋だ。刀剣破壊を防いでくれるような立派な奴じゃない。
安っぽい生地に不揃いな縫い目。傾いた二重叶結び。
震える手でお守りを開ければ、一枚の紙切れ。

一期一振が来ますように!

間違いない。和泉守自身の字だ。

バッと顔を上げてさっきの姿を探すけれど既にもうどこにも見当たらなかった。


「和泉さん?あれ、そのお饅頭どうしたんですか?」

「主……いや、なんでもねぇよ。ほら、やる」

「いいんですか?あっすごく美味しい!」

和泉守も包装を破いて一つ齧った。

ああ、本当だ。

「美味いな……っ」

「え、泣くほど美味しかったです?買いましょうか?」

「違ぇ…なんともねぇ。ほら、はやく用事済ませて帰るぜ。みんな待ってるんだからよ」

そうだ。残りの一つは本丸にいる秋田にやろう。
勝手に少し距離を取ってしまっていたから、共に茶でも飲んで話をしよう。

彼が饅頭を気に入ったら、今度は一緒に来てみよう。


和泉守は饅頭を一つ、大事に懐に入れて歩き出した。
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