ザアザアと叩きつけるような雨が降っている。

少し離れたところに自立して店を構えている以前世話をしていた子のところへ顔を出した帰りのことだ。

朝からパラパラと降っていた雨は今や豪雨になっていた。

傘が意味をなしていないがここまで激しい雨の中、飛んで帰るのはちょっと遠慮したい。
雨自体は嫌いじゃないんだけども。

雨に紛れて活躍する子もいるからそういう子は朝から出かけて絶好調だろうなぁ。

留守番させている子たちにと包んでもらったお土産を濡れないように抱え直して、傘を軽く畳んでギリギリ通れる細さの路地裏に入る。

建物が壁になって弱った雨に握り込んでいた傘を少し持ち上げると、道の先に汚れた桃色の綿毛が落ちていた。

否、あれは、

「秋田藤四郎?」

刀剣男士の秋田藤四郎だ。何度かいろんな審神者の護衛で店に来ていたから顔は知っている。
たしか泡盛?だとかいう兄弟の多い刀派だったはず。

それがなぜこんなところに?

雨宿りだというならどこかの店に入るか軒下が最適だろう。

路地裏では雨宿りには適さない。
しかもどう見ても行き倒れ。

なぜ審神者の霊力がないと顕現できない刀剣男士が行き倒れるのか。

とにかく退いて貰わないと私が通れない。流石に幼い姿の子を踏んで歩く選択肢はないのだ。

「ねぇ、あなたこんなところでどうしたの?主は?」

もしもーし。揺すってみれば薄っすら目を開けたけどすぐにまた閉じてしまった。

「えぇ……もう、困るなぁ」

片手に傘、片手にお土産。両手は塞がっている。少し悩んだけど仕方ないか…と傘を畳んで道脇に置いた。

刀剣男士だろうが、人間にとって神様であろうが私にとってはただの年下の、付喪神という妖怪なのだ。

「よっ……こいしょ!」

片腕で抱えるのはいささか大変だったし服は容赦なく汚れたが、なんとか抱えて歩き出す。どっちみちもうすぐ店なのだ。帰って風呂に入れば問題ない。
お土産は……少し湿気るかもしれないけど大目に見てもらおう。

路地裏を抜けた後は雨に視界を遮られながら走った。

カランカラン

「ただいまー…ちょっとこの子受け取ってもらえるー?」

「おかえりなさ…店長!?ずぶ濡れじゃないですか!」
「傘は!?」
「え、なんで秋田藤四郎?」
「晩ご飯ですか?」

素早くタオルを持ってきてくれた一番目の子にお礼を言って、ニ番目の子に置き去りにしてしまった傘をお願いして、三番目の子に秋田藤四郎を渡し、最後の食いしん坊君にお土産を手渡す。秋田は食べないわ。

「そこの路地で倒れてるのを拾ったのよ。見捨てるわけにもいかないし…目が覚めたら事情を聞くとして、まずは身を清めてあげましょう」

「店長も入りますよね。お湯張ってあります」
「ありがとう」
「俺も手伝います!」
「私が行くから男共は店番してな!」
「うっす」

秋田藤四郎は手伝いを申し出てくれた女の子に任せてお湯をいただく。
店の裏手と三階部分は居住スペースだ。
多分一番こだわったお風呂は3人なら一緒に入って大丈夫なくらいに広い。
みんな純日本妖怪だからお風呂が好きなのだ。

「……クロハさまぁ…」

秋田の服を脱がせていた彼女が情けない声を上げる。
普段は気が強いこの子がこんな声を上げるなんてとそばに行けば理由はすぐに分かった。

今までは薄汚れていたし、軍服のような長袖と白タイツで隠れていたが……その柔い肌には無数のアザがあった。

あらまあ……思った以上に厄介な拾い物だった。

何はともあれ憶測だけじゃどうにもならないしどうにも出来ない。

辛かったらいいよ?と言ったけど首を振られたので継続して任せることにした。


_______________________________________________


目を覚ました秋田の目に映ったのはいつもの見慣れた本丸の天井ではなかった。
彼がそのネタを知っていたら「知らない天井だ……」とでも言っていたかもしれない。

ふかふかの布団、羽のように軽く暖かい毛布、優しく包み込むような枕。

ぼんやりとする頭で状況をひとつずつ確認していく。

サアサアと静かな音を立てる雨が窓ガラスを濡らす。
しばらくその雨音に耳を澄ませていると、だんだん頭が覚醒してきた。
そうだ、僕は主君に命じられて………

「あら、起きた?」

「!」

身動ぎに気付いて声をかけたら彼は跳ね起きた。
おお、さすが刀剣男士?枕元に置いてあった刀にもすぐに気付いて抱える。
別に危害を加えるつもりはないんだけどな。

私は審神者じゃないので手入れなんて出来ない。なのでアザに関しては湿布貼ったりと手当てレベルがせいぜいだ。
刀剣男士の怪我が手入れじゃなくても治るのかは知らないけど。

こちらは一応丸腰で敵意なし。おまけに着替えと手当てまでされてることに気付いたらしく慌ててお礼を言ってきた。礼儀正しい。

「お気になさらず。それより覚えてる?あなた、路地裏で倒れていたのだけれど」

「はい…えっと、」

グゥー………

盛大に腹の虫が鳴った。
お腹を押さえて赤くなる姿は何とも可愛らしい。
彼を保護したのが昼過ぎだから少なくとも5時間は経っている。
キッチンでは夕飯の仕込みが始まっているはずだが出来上がりにはもう少しかかるだろうし、食いしん坊が平らげていたのでお昼ご飯は残ってない。

なにか摘めるものでもあったっけ?
あ、お土産があるわ。おまんじゅう。お昼食べ過ぎて胃にお土産が入る余裕が無くなった子の分だけど。

おいで、と声をかけると素直にベッドから降りたので部屋を出て店の方へ向かう。
居住スペースにあるのは自室とか風呂だけで、リビングはカフェスペースだしキッチンは共用なのだ。
ちなみに彼を寝かせていた部屋は住んでるわけではないけどたびたび遊びに来る翼下の子達の部屋。
私の部屋でも良かったんだけど大反対されたから仕方なく。

「あ、起きたんですね」

1時間ほど前までカウンターで本日の武勇伝を熱く語っていた妖怪は帰ったらしく、店仕舞いを進めていた子がこちらに気づくと流れるような動作でホットミルクとおまんじゅうを用意してくれた。プロかよ。
「それ俺の分の!」と声を上げかけた食いしん坊は隣の子に絞め技かけられている。
お店の備品壊さないでねー?

「どうぞ?」

貰っていいのか迷ってる様子だったので促すと、いただきますと遠慮がちに口を付けた。

「美味しいです!」

あっ可愛い。








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